キャラメルリボンの夢

──そう、それはアリスがこの世界に来て間もない頃の事だった。

彼女は勢力の中間地点にある時計の塔に、「保護」という形で、主、ユリウスとの生活を続けていた。
他人の目から見れば、男と女が二人きりで一つ屋根の下、というのは非常にいかがわしい事態。しかし、当事者二人は全く意味がわかっていないらしく、これ以上の追求は皆しなかった。

だが、ユリウスは、「女性との同棲は危険」という、とある知り合いの言葉の真なる意味を初めて知ることとなる。




「──おい、起きろ」

「…………」

「っ、」


ぐいぐい。
体を揺らしてみても、頭を叩いてみても、全く反応なし。まるで子供並みの寝つきの良さに、ユリウスはただ、ため息をつくしかない。

突然部屋にやってきたアリスから抱きしめられて、何分が経っただろう。否、実際何時間も経ったような気さえする。

(こいつの事だから、夜中腹でも減って目が覚めて、何かの目的で部屋を出て、間違えて私の部屋に戻って来たのだろうが……)

(だからって何故私を抱き枕にするんだ、!)


彼の脳内はパニック状態。いつもは仕事の為だけにしか頭を使わない分、彼はこういうアクシデントに、非常に、弱い。

胸元に押し当てられた頬やら、肌を撫でる長い髪やら、背中にきつく回された腕やら。恋愛沙汰に全く経験のないユリウスにとって、恋心を抱くアリスの、今現在の無防備加減は、凶器にも等しい。もし今ここに、友人の騎士が来てくれたならば、どんなに感謝する事だろう。そんな事まで考えた。

だが、彼女の安心しきった寝顔を見て、頬が緩んだのも事実。
どんなに根暗と名高いユリウスと云えど、好きな子を大切に思う気持ちは強いらしい。
よく自分にこんな感情があったものだ、と内心で成長具合に頷いていた、

その時。


「、」


突然だった。
ふと、アリスの体がもぞりと動いたかと思えば、少しだけ沈黙があり、勢いよくタオルケットがはがされてしまった。同時に、くっついていた体温も無くなる。


「な、ななっ、な……」


ベッドの隅の方を見れば、奪ったタオルケットを頭に被りうずくまったアリスが、顔を真っ赤にして、ユリウスの方を見ていた。
まるで「なんで私のベッドにあなたがいるの」とでも云うような視線に、あぁ、と納得。


「ここは私の寝室だ。入ってきたのはお前で、ベッドに入ってきたのもお前だ」

「え、うそ……!」

「……はぁ、」


やはり寝ぼけていたのか、と小さく呟くと、身に覚えのない事態に、今度はアリスの脳内が忙しく混乱し始めたらしい。
タオルケットごと頬を抑えて丸くなるアリスを、まるで芋虫のようだ、と失礼な例え方をして、ベッドに横になる。
と、ふと違和感。


(…………、)


おかしい。
あれほど、早く起きてくれ、と願っていたはずなのに、物足りないのだ。


「……ついに私も、頭が沸いたようだな」


物足りない原因は考えずともわかっている。
ため息を一つついてから、丸まったタオルケットの中に適当に手を突っ込み。
ぐ、と体を引きずり出した。
そしてそのまま、先ほどと同じ体勢で寝転がり、今度はユリウスがアリスの背中に手を回す。


「ちょっ、ユリウス何やって、」

「寒い」

「はぁ?んじゃあタオルケットかければいいじゃない」

「お前が子供体温なのが悪い。それから俺はお前のせいで眠れていない」

「はあぁ?意味わかんな……ん、」


ない、と云おうとした矢先に、額に触れるだけのキス。
目をぱちくりとさせてから、アリスは唇を少しだけ尖らせた。


「…まるで子供ね」

「な、私よりお前の方が、」

「はいはいわかったから!寝るんじゃないの!」

投げるような口調と同時に、タオルケットを少々乱暴に掛ける。それから、むに、と胸元に頬を押し付けたのだから、おかしくてしょうがなくなった。


「アリス、」

「、何よ」

「おやすみ」

「…おやすみなさい」



互いの体温がひどく心地よく、愛おしく。

二人分の柔らかな寝息しか、聴こえなくなった。



キャラメルリボンの夢

日参している携帯サイトMs.flangeの蒼木ユキコ様から!70000hit記念リクエスト小説。『ハートの国のアリス』でユリウス×アリスをリクエストさせていただきまして!素敵!素敵過ぎる!闇猫が甘いのかけないのでほかの方の書かれる甘いのを読むのがとても楽しいのです・・・v

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