すれ違う心

初雪はまだだけれども、日中も寒いと感じるようになった季節になった。
こういう時は神将は羨ましいと昌浩は思う。
けれども雪が積もってもあの格好は見てる方が余計に寒くなってくる。
手を火鉢にかざしながら冷えた指先を暖める。
「う〜…それにしても寒いなぁ」
火鉢に向かってぼやいていると、突然背後に神将の放つ神気を感じ取った。
この神気は…と考えていると目の前がいきなり真っ暗になった。
「わっ!?」
ばさっと慌てて被せられたものを掴み取ると、その正体は六合の霊布。
「寒いのならこれを纏っていろ」
一度は昌浩に被せた霊布を再び手に取り、肩から体が隠れるように掛ける。
ほんわかと温かく感じて昌浩は顔を綻ばせた。
「ありがとう、りく」
あまり表情は変わらない六合でも、昌浩の前ではかなり表情が豊かになる。
笑顔につられるように六合も自然と顔の筋肉が緩んだ。
そして、昌浩の隣にどっかりと腰を落ち着かせた。
ちょっと体を傾ければ寄りかかれる程近い。
昌浩は自然と六合に寄りかかり、力を抜いて支えてもらう形になった。
「昌浩、そんなに寒いのか?」
寄りかかる昌浩が微かに震えていた。
触れる肌も冷えてしまっている。
「ん…今日は扉開けっ放しにしてたからかも…」
六合は冷えた昌浩の手を自分の手で挟み込んだ。
暫くすると、今度は別の神将の気配。
現れたのは紅蓮・青龍・勾陳の3名。
昌浩たちの姿を見て紅蓮は騒ぎ立て、青龍は眉間の皺を増やす。
勾陳は温かい目を向けている。
「煩いよ、紅蓮。ま、いいや、紅蓮も青龍も勾陳もおいでよ」
もちろん体は六合に預けたままの姿勢。
ちなみに昌浩の片側は六合がいるが、もう片方は空いている(当たり前だ)。
紅蓮と青龍は我先にと昌浩の隣に座ろうとする。
互いに腕を掴み先に進めないようにしている間に、先を越された。
「あ、玄武」
ちゃっかりと昌浩の隣に腰を下ろした少年の体躯をした神将、玄武。
「我は空いている場所に座っただけだ」
と容姿に似合わない大人びた口調。
2人の神将はがっくりと肩を落として昌浩の前に座り込んだ。
勾陳は既に自分の場所を確保していた。
「あ、そういえば落ち葉集めてたよね。焼き芋でもやらない?」
いい事を思いついた!と目を輝かせて神将を見渡す。
「ね、りく、手伝って」
包まれたままの手を解き、温かくなった手で六合の手を掴み部屋を出て行く。
何故あいつなんだ…と思っている神将の気持ちを知ったかどうかはわからないが、暫くすると芋をたくさん抱えた昌浩がひょっこりと顔を出してきた。
「早くおいでよ!紅蓮、落ち葉に火、つけて」
マッチのように火将の能力を利用しようという。
頼まれた事を喜びながら落ち葉に火をつけようとすると、先に火がついた。
「お前らもう集まってたのか」
朱雀が天一と一緒に現れた。火をつけたのも、朱雀。
「何でお前まで来るんだ」
「そりゃ昌浩に呼ばれたからに決まってるだろ?な、天貴」
天一はこくりと頷いた。
何だかんだで神将がかなり集まっている。
パチパチと落ち葉が焼けていく中に昌浩は芋を放り込んでいく。
ついでに暖を取る。
「昌浩様、遅くなってしまいました」
優雅な口調で現れたのは太裳だ。隣には天后の姿もある。
昌浩は自分の掛け声に集まってくれた事が嬉しくてずっと笑顔を零している。
「おい、焼けたぞ」
青龍が頃合を見て会話を遮った。
その声を合図に勾陳が筆架叉を使い芋を取り出していく。
もちろん最初に渡されるのは昌浩だ。
昌浩は差し出された芋を袖越しに受け取った。それでも熱さは伝わってくる。
どうやって冷やそうか、と考えていると軽い風が芋を包み込んだ。
程なくして丁度いい熱さにまで冷えて、昌浩はすぐに食べる事が出来た。
更に加わる神将の姿に場は騒然とし始めた。
そして雪崩れ込むように乱闘開始。
一応考えているのか、昌浩と焚き火の場所には攻撃の被害はない。
「…ねぇ、りく…みんな、あんなに仲悪かったっけ?」
はぐはぐと焼き芋を頬張りながら隣の六合を見上げる。
六合は溜息を零して、わからない、と曖昧に答えた。
「昌浩、お前は六合の事を"りく"と呼んでいるのだな」
勾陳のこの言葉をきっかけに乱闘終了。
皆がハッとして六合と昌浩を見た。
「うん、そだよ」
「何で六合だけなんだっ!!俺は!!」
紅蓮が昌浩に詰め寄るように距離を縮めてきた。
「わっ、ちょ、りく!助けて!」
びっくりした昌浩が助けを求めたのは六合。
紅蓮の嫉妬の眼差しはきつく六合に注がれている。
紅蓮の後ろにいる青龍も密かに六合に嫉妬の眼差しを送っている。
「いい加減にしろ、騰蛇」
「昌浩!」
「何でって…俺、りくの事好きだもん」
最近気がついたんだけどね、と続く言葉は六合だけに送った。
六合は目元を緩ませて嬉しそうな表情になった。
りくが好き…とその部分だけがリピートされて、紅蓮は思いっきり崩れ落ちた。
こんな姿が最凶の闘将だとは思いたくない。
「昌浩、晴明が俺にくれた二つ名を教えておく。彩輝だ」
「彩輝…綺麗な名前だね、りく」
教えてもらっても今までみたいに"りく"と呼んだ。
けれども昌浩は明日からは彩輝と呼ぼう、と心の中で思っている。
「ところで紅蓮。いつまでも地面と仲良ししてないでよ」
相変わらず地面に突っ伏している紅蓮に些か冷めた視線を送ってしまう。
しかも顔を上げた時にその目を見てしまい、再び地面と仲良しになった。
「昌浩、騰蛇は放っておいてそろそろ中へ入れ」
昌浩を抱える六合をなるべく視界にいれないように、青龍が半ば不機嫌な声で言った。
他の神将もそれに同意を示し、ぞろぞろと部屋へ戻っていく。
紅蓮は勾陳に引き摺られて中へ戻った。


「彩輝…」
部屋の中でもやたら騒いだ後、もう寝ろという誰かの言葉をきっかけに神将は異界へ戻った。
六合だけは昌浩に引き止められ、その後何故か膝枕で寝られてしまった。
昌浩の黒く流れる髪の毛先で遊びながら寝顔を眺めていると、寝言で名前を呼ばれた。
縋るような声音で呼ばれ、六合は肩に掛けた霊布を昌浩の体に掛けた。
翌朝、昌浩が六合の膝枕で寝てしまった事に自分で驚いて、早朝から大声で叫んだ。

日参している携帯サイトDARKNESSの朝霧蒼衣様作!
20万HIT記念でリクエストしました!昌浩争奪戦・オチ六合!六合と昌浩がらぶらぶしててそれに紅蓮が凹む姿がぐっじょぶ!です!
← 戻る