「…だけど、なんで骸なのかな」
一度は敵だった奴。そんな奴と、こたつで向かい合って、ミカンなんて食べてる。さっきは年越し蕎麦を一緒に作ったし、アットホームなんて空気じゃない。むしろどんな友人よりも親戚よりも親しげで上手くやれてて、俺自身びっくりだ。
「おや、酷いですね綱吉君。僕では役不足ですか?」
「んー違う違う。骸は黒曜ランドで年越しすると思ってたからなんか意外でさ」
「あぁ。千種達なら旅行に行ってますよ、アルコバレーノに旅行券を頂いたのでね」
「そういう事かー」
ん、あれでもそれって、
「お前ばっかり旅行行けないんじゃあ」
俺の為に旅行諦めてこんな狭いこたつの中で年越しするなんて、なんか、かなり申し訳ないんだけど。
「クフ…なんとそうでもないんですよ」
うっすらと悠然に微笑んだ骸は、よっぽどこたつからでるのが嫌なのか腹這いになって遠くに置いていたバッグに手を伸ばす。その様子が、見かけの良さとすごいギャップを生んで、堪えきれなくなってふきだした。普段かっこいい分、こんな風に気を抜いた時は可愛いんだからなぁ。
と、骸はバッグから探し物を見つけたらしく、二枚の紙を取り出して俺の眼前に突き出す。ぺろん、とだらしなく垂れ下がるそれ。多分、何かのチケットだ。
「アルコバレーノにこれをもらいましたから」
「なになに……"ペアで行こう!グアム7日間の旅☆"」
「これでたまには息抜きしてこいとのご指導ですよ、ボンゴレ10代目?」
「え、俺と一緒なの」
「他に誰と行けというのですか」
「うわ、海外旅行とかかなり楽しみなんだけど!」
「クフフ…僕もですよ」
でもその前に、冬休みの課題をなんとかしないといけませんねぇ。骸の台詞はぐさっと刺さった。なにせ、机の上に散らかされたテキストは真っ白なのだ。まぁ骸のそれも同じくらい真っ白なんだけど。何気ないところで似たもの同士だったりする。
「あ、もう直ぐ年明けるみたい」
と時計を見ながらぼんやりと思っていると、骸がクフフと小さく笑い出した。
只今の時刻は23:58。
「…こうして君と、いや、一生のうちに日常を楽しむ事ができるなんて思ってもいませんでした」
「あーそれ俺もだ。まさか、あんなに命がけで戦った相手とミカン親指に差してハンドパワーしあうなんて思ってなかった」
「それ千種達には内緒ですからね!──全くきみは、僕が真剣に云っているのに」
「、」
やれやれ、と何処か楽しそうに笑みを滲ませた骸。真剣に云ってるなんて嘘じゃないのか、それ。
でも同じ事を思っていたのは事実だし、なんか、やっぱり似たもの同士なんだな、俺達は。
骸の云う運命が本当にあるのなら、神様はいい方向に転がしてくれたんだなぁ。だって俺、今ものすごく幸せだから。
「…凄まじくでれでれ顔ですね、君」
「えへへー」
「おや、もうすぐ変わりますよ」
「本当だ、」
テレビ画面に、カウントダウンの数が大きく表示された。どこかの会場で、たくさんのカウントコール。小さく、それに合わせて呟いた時突然肩に力が掛かって、次の瞬間には俺の視界にテレビ画面はなく、かわりに骸のきれいな顔があった。カウントは進みに進んであと少し。骸のしようとしていることが理解できて、なんだか俺は、恥ずかしいけど可笑しくなって。
「骸ってさ、考える事意外ーと月並みだよね」
「ありきたりでもいいじゃないですか、だって」
さん、
「終わりも始まりも君と一緒なんて」
に、
「──泣きたくなるくらい幸せなんだ」
いち。
は骸の唇に飲み込まれて、大勢のハッピーニューイヤーはどこか遠くに聴こえた。完璧に似たもの同士、っていうかもう一心同体かもしれない。俺も、そう思ったから。
これからもずっと一緒にいような、なんて俺らしくない事云っちゃったりして。
(とりあえずさ、明けましておめでとう!)