またあした





「俺、お前に"じゃあね"って云われんのなんか嫌なんだよなぁ」



視界の隅にあって尚、存在感を漂わせるような茜色の空。
長く伸びる電信柱の影とか、夕方の独特なしんみりした空気、そんな全部が切なくなってしまう時間帯──つまりは家路の別れる時、決まって告げる言葉がナルトは嫌いなのだと云う。
それはなんでだろうか、考えても思いつかず、サイは首を傾げる。


「でも挨拶って大切なものじゃないかな、」

「んー、礼儀ってやつだってばよ」


それは自信満々に肯定しておいて、先程の嫌い発言は何なんだろう。ますます意味がわからない。
そうやってサイが一人静かに悩んでいると、ナルトは、俺もよくわかんねーけど、と笑った。


「なんか寂しいんだよなぁ、哀愁ってやつ?だから嫌いだ」


寂しいのは嫌。それはサイですら思う事だ。
しかし、これまでただ形式だけであった挨拶にまでそれを感じた事はなかった。それ程までに、ナルトは寂しい思いをしているのだろうか。
──否、それは違う。自惚れであるかも知れないが、サイは一つの仮説にたどり着く。


「サクラとかが云う"じゃあね"、はどう思うんだい?」

「んー、別に普通だってばよ」

「それじゃあ、僕の云う"じゃあね"は?」

「──やっぱなんか嫌だな、何でだろ」



やはり、そういう事。
サイは一人、素敵な結論を導き出した事に小さく笑った。それはきっと仮説の枠を出る。


(ナルトは馬鹿だな、僕が君を見捨てる筈が無いのに)


何で笑ってんだよと微かに眉を寄せるナルトの頭を撫でながら、サイは瞼を緩く伏せる。


「今度から僕にだけ、"また明日"って云ってよ」

「、」


また明日、それは明日も一緒にいる為の約束。その約束を明日も明後日もすれば、ずっと一緒にいられるでしょう。
誰かが云っていた月並みな言葉ではあったが、今なら、その真意がわかる。
対称的に目を丸く見開いたナルトは、しかし直ぐに柔らかな笑みを浮かべて、サイを見上げる。



「そしたらお前は、はどう返してくれんだよ」

「勿論、"また明日ね"、だよ」




お前ってば最高、そう云って勢いよく飛びつく愛おしい少年をさらに抱き締めて、遂にサイは声を上げて笑った。

明日も明後日もずっと、"一緒にいようね"。
それは自分達二人だけの、素晴らしく綺麗な約束であるから。






またあした


(それは明日また一緒にいるのだと云う確かな約束)

(その言葉は好きだなぁと、君が笑った)

日参している携帯サイトMs.flangeの蒼木ユキコ様から!サイト二周年記念小説サイナルver.!おめでとうございます!!ほのぼの系は癒される・・・vv

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