恋に落つれば

あれは気の迷いだったんだろうか。
いや、そう思いたかっただけなんだ。


「壊れていて通信は出来そうにないな」

「こっちもだ」



俺と刹那は二人きりで無人島にいた。というのもアロウズとの激しい交戦の末、二人してここに墜ちてしまったのだ。
おまけにガンダムの損傷は激しく、トレミーにはセラヴィーとダブルオーの機体はLOSTと表示されているだろう。



「待っていれば救援が来るだろう」

「そうだな」



ただ俺たちがいるのは地上。トレミーは宇宙。
場所の特定に少し時間がかかりそうだ。
しかも今頃はアリオスとケルディムも宇宙で別ミッションについているはずだ。



「今晩はここで明かすしかない。大丈夫か?」

「…あぁ」



口数少ない刹那だが、最近になって表情が読めるようになり、少し距離が近付いたように思う。
一緒にいるのが楽だ。
それに幸い今の季節は夏、俺も刹那もスーツの前を寛げているくらいだ。ガンダムには携帯食料も積んである。 ここで夜を明かすことに何ら不満はない。


「…刹那?」

考えに耽っていると刹那が傍から消えていた。
と同時に大きく水が跳ねる音が聞こえた。



―バシャンッ


「?」



そういえば近くに湖があったように思う。
俺は音の正体を確かめるべく腰を上げた。




*****




湖のほとりまで来ると、月が反射して水面が光っていて幻想的だった。
その水面の月の中央に人が立っている。



「刹那?」

「ティエリア」

「何をしている」

「…月を見ていたら落ちたんだ」



意外な面を見た。
感情に左右されることなどなさそうな刹那が、月に見とれて湖に落ちるなど、とても意外だった。





思えばこの時から始まったのかもしれない。



「夏とはいえいつまでも水の中にいたら冷える。ほら、掴まれ」



湖の中にいる刹那に手を延ばす。刹那が俺の手を掴もうとした瞬間、


―バシャーンッ!



…バランスを崩し、俺も湖に落ちてしまった。

「ティエリア、大丈夫か?」

「…あぁ、問題ない」



二人して落ちるなんて馬鹿みたいだ。



「…ははっ」

「刹那?」

「馬鹿みたいだな、俺たち…」

「………」



――控え目に笑う刹那から目が離せない。
そんな刹那も俺のことを見ていた。



「上がろうか」



刹那の手を引いた。
素直に握り返してくる。
そうだ、コイツは実はとても素直なんだ。
誰も知らない、俺が最初に見つけた特徴だ。


淵で止まって刹那を先に上がらせようと支えてやっていたのだが、今度は刹那がバランスを崩し倒れてきた。



「うわっ!」



そんな刹那の腰を支えてやる。



「刹那、気をつけろ」

「っお互いさまだ」



少しむっとした顔をして見上げてくる刹那。
俺が落ちた時のことを言っているんだろう。



「…ははっ、その通りだな」

何だろう。
二人でいると心地良い。
トレミーにいるとしばしば苛立つこともあるが、今はそれがない。



――ずっと二人でいられたら、とさえ思えた。



「ティエリア?」



考え込む俺を不思議そうに覗き込む刹那。
随分成長したといってもまだ俺の方が背が高い。


抱き合ったまましばらく見つめ合っていた。
見上げてくる刹那を見ると、濡れた髪が首筋に張り付き、水滴が華奢な体のラインを伝う。大きく開いたスーツの胸元がとても妖艶に感じた。
無意識に腰に腕を回し、頬に手を添えた。刹那はなんの抵抗もせず、ただ俺を見つめている。
その濡れた唇に引き寄せられるように俺は――









嗚呼、気の迷いだと思いたかったのに。
気の迷いなんかじゃ済ませられなくなった。



「刹那」

「ん…」



満天の星の下、俺達は初めて口付けをした。

日参している携帯サイト白黒こんとらすとの白乃様から!
一周年記念フリーだったので掻っ攫ってまいりましたv(おい)。ティエ刹ティエ刹vv

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