新たな供

「そういうわけで、改めて決めようと思うんじゃ」

そんな晴明の言葉で始まった、本日。一体何がそういうわけで、一体何を改めて決めるというのか。
全員の表情からその考えを読み取ったのか、晴明はにっこりと笑った。

「昌浩の付き人の話じゃ。ずっと紅蓮だと飽きると思うてな」
「何だと!?おい昌浩、俺じゃ不服か!?」
「え?い、いや、別に……誰でも良いし……」

昌浩の容赦ない一言に、思い切りショックを受ける物の怪。背後にベタフラが見える。
ズーンと落ち込む物の怪なんて何のその、他の神将達は目を輝かせた。

「それは良い案だ、晴明!それで、どうやって決めるんだ?」
「すまんな朱雀。紅蓮じゃ飽きるだろうが、仮にも付き人、いざという時に昌浩を守ってくれなきゃ話にならん。そこでだ、闘将の四人に争ってもらおうと思ってな」

指名された勾陣、青龍、六合以外の神将達が、物の怪と同じ状態に陥る。戦う前から負けた。
確かに晴明が言う事も尤もだが、それでも許されるのなら、昌浩争奪戦に参加したかった。

「が、単純な戦闘じゃ結果は目に見えておるからの。総合面で判断する」
「と、言うと?」
「昌浩との相性も関わってくるからの。今日から一人ずつ、一日一緒に行動し、最終的には昌浩に決めてもらう」
「っていうか、それを行う事は最早決定ですか?じい様」
「決定じゃ、お前に拒否権はないぞ。今日は物忌みじゃから、明日から開始とする」

こうして、昌浩争奪戦という名の、付き人強奪戦が始まった。







「それじゃ、行ってきます」
「ああ、気をつけての」

紅蓮基物の怪は普段から一緒なので、改めて特別な事はしないようだ。
今日から三日間、争奪戦が終わるまでは、陰陽寮について行く事を許可された。
そして、今日のもう一人のお供は勾陣。神気が強い順にやる事になった。

「昌浩」
「ん?」
「私は、闘将の中の紅一点だ」
「ん?うん」

知ってるけど、とは言わなかったが、何故今それを言うのか分からない、と言った感じか。軽く首を傾げる昌浩。
そんな昌浩に、落とすのは我々の筈だが、逆に落とされそうになるな、なんて心の中で肩に乗っている物の怪に話しかける勾陣。
そしたら、落とされそうになるなら早々に辞退しろ、なんて又しても心の中で言葉を返す物の怪。君達超能力者ですか。

「陰陽寮も男ばかりだし、私と一緒の方が華やぐと思わないか?」
「はっ。天一ならまだしも、勾じゃ華やぐどころか……っ!?」

鼻で笑ってから、向けられる殺気に気付いた。ぎぎぎぎぎ、と少しだけ顔を横に動かすと、にっこりと笑う勾陣の顔が映る。
―― 道のど真ん中に、徒人には見えない死体が一つ、出来上がった。



「昌浩」
「あ、成親兄上。お早う御座いますー」
「ああ、お早う。 ―― 騰蛇はどうした、勾陣だけか?」
「今、昌浩の新しい付き人を決めてる最中でな。その試用期間のようなものだ」

やはり、昌浩イコール騰蛇、の公式が各々の中で出来上がっているらしい。
それはそうか。昌浩が産まれた時から、今までずっと傍に居たのは紅蓮だ。
それは勿論頭では理解している ―― しているのだが、やはりこうも面と向かって言われると、中々にむかつく。

「何?代えるのか?」
「最終的に判断するのは昌浩だ。闘将の中から選ぶから、また騰蛇になる可能性とてあるが……、」
「現時点じゃ決められないけど……まあ、一生懸命考えるよ……」

成親は、朝から昌浩に会えた事でテンションがうなぎ上りなのだが、昌浩は逆なようだ。
一生懸命考える、なんて言いながら溜息を吐いている。まあ、それも百も承知だ。今回は、他人よりどれだけ一歩リード出来るかが鍵となる。

「昌浩、さぼり魔の暦博士は置いといて、そろそろ行こう」
「あ、そうだね。それじゃ兄上、失礼しまーす」
「あ、ああ」

さぼり魔って所のフォローはしてくれないのか昌浩、と泣きそうになる成親。
が、そこで博士ー!と聞きなれた声が聞こえてき、成親は慌ててその場を後にした。



「勾ー!」
「漸く復活したのか、貧弱な」

一刻程経っただろうか。徒人には聞こえない大声が、昌浩と勾陣の耳に飛び込んできた。
勾陣もっくんには容赦ないな、なんて苦笑を漏らしつつ、目の前の作業を続ける昌浩。

「だ、誰が貧弱だ!おまっ、こんな可愛らしい俺を、よくも足蹴にしてくれたな!」
「黙れ物の怪。どうだ昌浩、物の怪より私の方が断然強いぞ」
「あはは、まあ確かにもっくんと比べるとね」
「また独り言か?昌浩殿」

聞こえてきた声と言葉に、えっ、と声を漏らしながら顔を上げれば、目の前には予想通り、藤原敏次が立っていた。
運が悪いのか何なのか、神将達に投げかける言葉を、よく独り言として敏次には聞かれてしまう。

「あっ、いえ ―― ど、どうかしました?敏次殿」
「ああ、吉昌様が呼ばれていたぞ」
「え? ―― 分かりました、有難う御座います」

態々敏次殿に伝言を頼んで俺を呼び出すなんて、父上何の用だろう、と思いつつ、昌浩は席を立った。



「父上ー」
「ああ、昌浩。 ―― すまない、実は少し面倒な事になっていてな……」

声を潜め、ぼそぼそと話してくる吉昌に、首を傾げる昌浩。
少し面倒な事 ―― とは、一体。陰陽寮はいつも通りで、特に変わった様子は見られない。

「いや、残念な事にそれに気付いたのは父上でだな、今兄上が現場に向かっているんだが ―― 、」
「じい様?」

吉昌の兄、吉平の事は気にならないようである。情報の発信源が晴明、その部分に眉を顰める。
後ろを振り返れば、腕組みをしていた勾陣と目が合うが、肩を竦められた。

「父上、叔父上が行ってる現場って何処ですか」
「左近衛府の方だ」

その言葉に、分かりました、と言いながら立ち上がる昌浩。勾陣と顔を見合わせ、こくん、と頷いた。



「叔父上ー!」
「昌浩?どうした」
「いえ、ちょっと……それで、じい様が報告してきたっていうのは?」
「ああ、あれだ」

建物の角から、恐る恐ると言った感じで此方をちら見してくる妖がいる。
大して大きくなく、妖気も気にする程ではない。が、あの晴明が態々報告してきたのだから、無視は出来ない。

「祓っちゃうんですか……?」
「そうだな……寧ろ、祓う事が悪い事のような気がするのだが……」
「っ、吉平下がれ!」
「何?」
「え? ―― わああっ!」

昌浩と吉平の後ろに立っていた勾陣が、いきなり吉平の首根っこを掴んで引きずり倒す。
そして、昌浩は瞬く間に成り代わった紅蓮が背後に庇う。

「え……ちょ、えええ!?何々!?いきなり大きくなったよ!?」
「落ち着け昌浩!それでも大した奴じゃない ―― お前なら、簡単に祓えるだろう」

確かに、二尺はあろうかという程に大きくなったが、妖気は然程変わらない。
これなら大丈夫かな、と思いつつ、紅蓮の背後に庇われながらも、検印を結んだ。







「ただいまー」
「おっかえりー、昌浩!どうだった?」
「御免太陰、その前にじい様に用があるんだ」

邸に帰れば、太陰が出迎えてくれた。どうだった、というのは勾陣の事だろうが、今はそれより晴明だ。
相も変わらず沓をばらばらに脱ぎ捨て、ばたばたと晴明の部屋へと向かった。

「じい様!」
「なんじゃ」
「あの妖は何ですか?体の大きさは置いておくにしても、態々祓う必要はない程度の妖気でしたよ?」
「まあ、細かい事は気にするな」

気にするな、って。気になるに決まっている ―― が、答える気は更々ないように見える晴明を見て、がっくりと項垂れた。







「行ってきます」
「頑張っての」

次の日の供は、青龍だ。いつも以上に眉間に皺が寄っていて、昌浩の方が気を遣ってしまう。
神将の殆どは、昌浩に好意的だ。内容は兎も角、今回の事に参加出来ないと分かった時の皆の落胆振りを見て、昌浩自身、少し申し訳なく思った程だ。
が、青龍だけは違う。話しかければ返してはくれるが、いつも眉間に皺が寄っていて、機嫌が良さそうに見えた事は一度もない。
それは勿論照れ隠しと、あの騰蛇の傍に居なければならないという、正反対の二つの理由が絡まっての表情であるが。

「あの……青龍?」
「何だ」
「御免ね、こんな事に付きあわせちゃって ―― 、」

青龍の事は絶対指名しないから、今日一日だけ我慢してくれる?と、申し訳なさそうに見上げてくる昌浩に、青龍はより一層眉間の皺を深くした。
絶対指名しないだと?それでは、今日一日俺がどれだけ頑張ろうとも、こいつの新しい付き人にはなれないという事か。
そう思うと余計いらいらしてきて、つい舌打ちをしてしまう。

「ご、ごごご御免、ね?」
「そうではない ―― 申し訳ないと思うのなら、俺を新しい付き人として選んで貰おうか」

青龍の言葉に、え?と言葉を漏らす昌浩。俺を新しい付き人として選べ?
あれ、青龍は俺に付き合うのが嫌で、あんな表情してたんじゃ ―― 違うの?

「おいこら青龍……お前、よく俺の前でそんな事が言えるな?」
「黙れ物の怪」
「だーっ、こら!踏むな!!」

自分の足元をぽてぽてと歩いているのを良い事に、遠慮もなしに物の怪を思い切り踏みつける青龍。
青龍に踏みつけられ、物の怪はじたばたと両手両足を動かすが、当然抜け出せるわけもなく。
そんな物の怪なんて何のその、昌浩は青龍の言葉の意味を考えていた。

「うーん……ねえ青龍 ―― って、あれ?もっくんは?」
「蹴り飛ばした」
「ええええええ!?」
「死にはしない。それより、とっとと陰陽寮に行くぞ」
「あ、うん」

ふ、と気付いたら物の怪がおらず、首を傾げると蹴飛ばした、なんて。
思わず焦るが、青龍に先を促され、確かにもっくんなら大丈夫かな ―― なんて、根拠のない自信に勝手に納得した。



「ああ、昌浩。お早う」
「お早う御座いますー、昌親兄上」
「今日は青龍なんだね」
「あ、知ってるんですか?」

兄上に聞いたからね、と安心出来る笑顔を向けられ、へにゃ、と昌浩も笑う。
その笑顔に昌親と青龍は、内心火山を爆発させながらも、昌親が青龍を手招きで呼ぶ。

「何だ」
「あんまり眉間に皺を寄せてると、昌浩が残念がるよ。たまには笑顔を見せてやったらどうだ」

昌親の言葉に目を見開くものの、そんな青龍は無視して、昌浩に話しかける昌親。
一言二言言葉を交わし、昌親がその場を立ち去ったので、昌浩が青龍の方を振り向く。

「それじゃ、俺達も行こうか」
「 ―― ああ」

昌浩の後に続いて、久しぶりに陰陽寮に足を踏み入れた。



「っ、」
「せーいーりゅーうー……!」

感じなれた神気に伏せていた顔を上げれば、ぼろぼろになった紅蓮が乗り込んできた。
仮にも陰陽寮、姿は見えずとも紅蓮の神気を感じられる人間は多少いるようで、室内がざわつく。
何だか怒っているように見える紅蓮に、どうしようと昌浩は一人慌てつつ、青龍は軽く無視だ。

「お前!この俺を蹴飛ばすなんて、覚悟は出来てるんだろうな……?」
「神気を封じられたお前など、大した相手にはならん」
「何だとぉ!?」
「ちょ、ちょっと二人とも ―― !」

止めに入ろうとしたら、二人の間に何故か六合が割り込む。
突然の登場に当然全員が驚き、思わず口があんぐりと開く。

「 ―― り、六合?」
「荒れ狂う騰蛇の神気を感じてな、晴明に命じられて俺が止めに来た ―― 」
「はっ!六合、お前に俺が止められるとでも……!?」

普段は此処まで激昂しないものの、相手が青龍ともなれば別らしい。
金冠で神気を封じられているとは言え、紅蓮から漏れる神気は陰陽寮をざわつかせるには十分だった。

「 ―― 昌浩」
「う、うん?」

陰陽博士を呼べ!だの、否、晴明様を呼べ!だのと騒がしい中、手招きで六合に呼ばれ、駆け足で六合に近付くと、いきなり左腕で抱きしめられた。
全員が驚愕の表情を浮かべる中、突然大きな衝撃波が襲ってきて、油断していた紅蓮と青龍は吹っ飛ばされる。

「えっ……」

六合の腕の中で少しだけ身じろぎし、外へと目をやるとこれまた大きな妖。
が、昨日と同じで妖気は大した事はない ―― が、不意打ちとは言え、あの程度で紅蓮と青龍を吹っ飛ばせるだろうか。
微妙に納得がいかず首を傾げる昌浩だが、それが大きな体を引きずって此方へと向かってくる。
ヤバい……っ、そう思って六合の腕から逃れようとするが、がっちりと抱きしめられていて、それが叶わない。

「あの、六合……放して?」
「その必要はない」
「え?」

必要があるとかないとか、そういう話じゃないんじゃ、と思ったが、ふふふふふ、と何だか黒い笑い声が聞こえてきた。
そっちに顔を向ければ、どす黒い瘴気を出している ―― ように見える ―― 紅蓮と青龍が立っていた。

「ぐ、紅蓮……青龍?」
『ぶっ殺す!』

二人の闘将が、一人の妖へと向かっていく。
当然その妖が無事で済むわけはなく、ちゅどーん、という爆発音が響いた。







「最後は六合だな」
「うん。宜しくね、六合」
「 ―― ああ」

翌日、試用期間最後の日。新しい供は、六合だ。
昨日、陰陽寮でこんな事があった、と晴明には報告したが、当然知っていたようで。
それでも紅蓮と青龍が倒した以上、最早何の問題もなく、翌日をこうして迎えた。

「でも、六合はそんなに新鮮じゃないよね」
「 ―― そうだな」

何せ、六合と陰陽寮に行く事は多々ある。それは勿論、晴明の命令なわけだが。
昌浩が何処となく上機嫌に見えるのも、恐らく気のせいではあるまい。

「 ―― 昌浩」
「うん?何、もっくん」
「 ―― いや、何でもない」

上機嫌なのは間違いないのだが、いつも通りの笑顔に、何だかどうでもよくなってしまった物の怪。
同胞の肩の上で、手足をだらしなくぶらさげながらも、思い切り溜息を吐いた。



「ま、ままま昌浩殿!逃げたまえ!」
「はい?」

そろそろ午の刻を回るだろうか、と言った時間帯に、敏次が慌てた様子で駆けつけてきた。
あの敏次が、規律を破るだろうか?陰陽寮内は、駆け足厳禁だ。
が、その慌てた様子も即座に理解出来た ―― 遠くで、何かが爆発するのが分かる。

「え? ―― 嘘、全然気付かなかった!」
「当たり前だ、我々とて攻撃されるまで気付かなかったのだ……良いから早く逃げたまえ!」

今、吉平様や吉昌様が ―― といった敏次の言葉は、昌浩の耳には届かず。
だっと走り出す昌浩の後を、六合と物の怪が追った。

「父上ー!」
「昌浩、来たか……力自体は大した事はないんだが、遠距離攻撃型のようで、我々の攻撃が届かない」

現場へと着けば、吉昌、吉平に加え、予想通りと言えば予想通り、成親と昌親までいた。

「遠距離……?俺が隙を作る、六合、後は宜しくね」
「 ―― 分かった」
「って待てぇい!何故俺には頼まない、昌浩!」
「え、いやもっくんならあの大きな手に叩かれて終わりかと思って」

そう。今回現れた妖も、昨日、一昨日と同じで、妖気は大した事ない癖に、体が無駄に大きい。
物の怪が飛び掛った所で、雑鬼達による昌浩一日一潰れ、と同じ結果になるのではないか、と。
勿論昌浩に悪意はないのだが、その言葉にぷるぷると震え、即座に紅蓮に成り代わる物の怪。

「俺の方が六合より強いって事を、再確認させてやる!」
「え?うん、宜しくね、紅蓮。 ―― やるよ!」







「さて。お試し期間が本日で終わったわけだが、結果は出たかの?昌浩」

あの後、陰陽寮での騒動は当然昌浩、紅蓮、六合の三人のおかげで瞬く間に解決。
いつも通り仕事を終わらせ、退出し、帰ってきたと思ったら晴明の部屋へと呼ばれた。

「うーん……そうですね……」
「まだ決められんか? ―― だがそうじゃの、じい様的には」
「はい?」
「六合を推薦しようかの」

晴明の一言で、昌浩は勿論、たむろしていた他の神将達の視線全てが六合へと向かう。
十二人分の視線なんてなんのその、六合はいつも通り涼しい顔である。

「な、何で六合なんですか?」
「勾陣は薄々気付いておったと思うが、連日の妖騒動はわしの仕業じゃ」
「え!?」

予想外の告白である。否、大きすぎる体、大した事はない妖気 ―― 態々陰陽寮に報告してきた晴明、多少疑問はあったが。
が、仕掛け人が分かった所で、その行動には一体どんな意味があるのか、まだ分からない。

「勾陣」
「何だ」
「お前は、あの時瞬間的に爆発する妖気に気がついて、吉平を庇ったな。何故じゃ?」
「 ―― 陰陽博士と言えど、騰蛇に首根っこを掴まれたら恐がるだろうと思ってな。昌浩はそういう心配がいらん」
「成る程。宵藍、お前は昌浩を庇う所か、自分が吹っ飛ばされておったな。紅蓮もそうじゃが」
「 ―― っ、」
「そういうわけじゃ。何を優先するか、そしてその実行力 ―― 全てを判断し、わしは六合を推薦する」

晴明の言葉に、成る程、と思わず納得する昌浩。
が、勾陣が言う事にも一理はある。俺は生まれてからずっと、紅蓮を恐いと思った事はない。
それでも、兄上とかは紅蓮が恐いみたいで ―― 叔父上もそうだったんだ。それを思えば、その行動も納得。
吹っ飛ばされた紅蓮と青龍が格好悪いとかは思わないけど、条件で絞り込むならこういう所で切り捨てないと。

「 ―― うん、分かった。六合、明日から宜しくね」
「 ―― ああ、任せておけ」



こうして、その日の夜から昌浩の部屋には、物の怪ではなく六合が入り込む事になった。
六合の確実にある下心には気付かず、それでも今までと少し違う雰囲気に、より一層可愛く笑う昌浩。
当然物の怪 ―― 紅蓮は居場所を奪われ、異界に引き篭もりがちになる始末である。そんな紅蓮を、呆れ顔の勾陣が訪れる。

「だらしないな、騰蛇。が、分かっただろう?私達は、いつも昌浩の傍に居るお前を見て、こんな気持ちだったんだ」
「 ―― ああ、漸く分かった」
「 ―― ……騰蛇。こういう時にかける最適の言葉を、とある人物から聞いた」

勾陣の言葉に、膝に押し付けていた額を上げ、漸く勾陣を目を合わせる紅蓮。
こういう時にかける最適の言葉、なんて言われてから言われても効果は半減な気もするが、今は気にしない事にする。
そして勾陣は、紅蓮の肩にポン、と手を置いて、こう言った。

「 ―― ドンマイ」

空翠楼閣の浅葱双葉様から!一周年&一万打リク企画!少年陰陽師で「闘将四人で昌浩争奪戦六合オチ」でお願いしたらこんな素敵なものをいただいてしまいました・・・!萌え!(落ち着け)。

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