お弁当戦争!!



朝日が眩しい早朝。

女王陛下がプライベートと公務、どちらにも使っている、ただっ広い部屋にて、11人の天剣授受者と1つの蝶型思念端子と、この部屋の主ーアルシェイラ・アルモニス女王陛下が座っていた。

そして天剣達の前には、可愛らしいピンクのナフキンに包まれた、弁当が1つ。

女王の手にも同じものが1つ。
女王の隣に強制的に座らされた、この弁当の制作者たるレイフォンの手にも、また1つ。

「陛下……本当にいいんですか?
僕が作ったやつですよ?
陛下の口に合うか……わかりませんよ?」
遠慮気味に、レイフォンが言う。


「いいのいいのー!
むしろ レイちゃんが作ったってとこが重要なんだから!」

上目使いに 困った笑みのダブルパンチをくらった女王は、なにこの 可愛い生物は〜、とハートマークを乱舞させながら、レイフォンをその豊かな胸に抱きしめた。

「だって、本当に…いいもの 入ってないし」

「いいのいいのー♪」

ぎゅうぅ〜、とお気に入りの玩具を取られまいとする子どものようにレイフォンを抱きしめ、女王は ちらちらと見せびらかすように天剣達を見た。
…というか見せびらかしている。

優位を確信した勝者のように、女王は微笑みながら、その場にいる天剣達に問う。

「ねえぇ?みんな?レイちゃん お手製弁当…食べたいよねぇ?」

「あ、だから余分に もう1つ弁当 作らせたんですね」

胸による窒息を回避したレイフォンが納得したように言い、そして すぐに首を傾げた。

「でも1つしか余分に作ってないですよ?」

「そう…、そうなのよ〜。
だからレイちゃんのお弁当が食べれるのは、私とレイちゃんと、後1人〜。
ちなみに私とレイちゃんは、レイちゃんが今日の汚染獣戦を終えたら 一緒に食べます!」

いいでしょう?羨ましいでしょう?
女王が 笑う。
ふふふ、と得意気に。

「…それで、陛下…そのもう1人は どのように決めるのですか?」

影武者のカナリスが、女王とは逆に不安そうな表情で言う。


「それは簡単★」

未だにレイフォンを抱きしめながら、女王が ぱちん とウインク。

心底 楽しそうな女王に、レイフォンは うん、嫌な予感… と呟いた。










お弁当戦争!!











事の始まりは多分、レイフォンの遅刻からだった。
ヴォルフシュテインとしての汚染獣戦に遅刻したのだ。
遅れてきたものの、汚染獣戦においては完璧に処理したが、レイフォンを良くも悪くも、かまいたくてかまいたくて仕方がない女王が その事に黙っているわけがなかった。
理由を訊くという名目で城に呼びだされたレイフォンは、迫る女王に素直に答えるしかなく、言った言葉が…


「…弟達のお弁当を、作ってたんです」

だった。
手を膝の辺りで もじもじさせて、下を向いてる レイちゃんは、お持ち帰りしたいほど愛らしかった、とは女王の言だ。

そして女王は罰ゲームと称し、弁当を3つ作って、と“お願い”した。
これだけならば、レイフォンは多少 渋っただろう。材料はタダではないのだ。

だが、

「これで いるもの買っていいから♪」

渡されたのは、……えぇ まぁ……大金でした。

そして、トドメの一言。

「おつりはいらないから」

「………………」

これを、庶民…否、庶民よりも下の生活をしている貧乏少女が断れようか、いや 断れまい。(反語)


…と、これがレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフが お手製弁当をいそいそと作るはめになった原因である。


だが、

「やっぱり断ればよかったかも…」

陛下の分はともかく、余計な1つは止めておけばよかった、とレイフォンは本気で後悔した。

皆さん……そんなに庶民の味に飢えてるんですか?
普段、贅沢三昧な生活してるくせに!

そう叫びたいくらい、目の前は悲惨なことになっていた。

朝、レイフォンが汚染獣戦に出る時は被害0だった部屋が、昼に帰ってきて見れば、見事にボロボロになっていた。
床は抉れ、壁紙は剥がれ、ソファーの類もズタズタにされ、絨毯など ただの布切れと化している。

おかしい。
レイフォンが出る前、弁当の最後の1人を決める時、女王が提案したのはじゃんけんであった。
大の大人達が輪になって、白熱して じゃんけんをする姿に、何か虚しさに似たものを感じながら出ていったから、確かに 同僚はじゃんけんをしていたはずである。
ぐー、ちょき、ぱー、で勝負していたはずだ。

だが、この状況はなんだ?
この部屋の惨劇と、この部屋にいる、同僚達、そして復元された錬金鋼。
ちなみに同僚10人は、どこからどう見ても、戦闘中。
思念端子も部屋中に配置され、地雷も混ざっていることが窺えた。

「いい加減、諦めたらどうなんですか?」
闘えて幸せそうですね、サヴァリスさん。

「あ゛ぁ?うっせーぞ、クソヤロー」

相変わらず口が悪い、…けどかっこいいです、バーメリンさん。

「やはり私としては、孫娘の手料理…一度は味わってみたいじゃないですか」

僕は貴女の孫じゃないんですけどね…、デルボネさん。

「いや!儂だって、孫の料理が食べたい!」

あの…貴方のお孫さんは、陛下でしょうが、ティグリスさん。

「私だって!たまにはレイフォンと ひっつきたいんです!」

何かヒステリーを起こしてません?
陛下と似通った顔で、何言ってんですか、カナリスさん。

「そのようなこと!陛下のふりしてやればよかろう!」

いや、よくない。何 言ってんですか、カルヴァーンさん。

「もう やりました!すぐバレました!」

ええ、やられました。気付きますよ、流石に。

「いや〜、やっぱ自分の女の飯…食べたいだろう?」

僕は貴方の女じゃありません。
訴えますよ、トロイアットさん。

「お前ら……15670000に分解してやろうか」

単位が多すぎて、全然 現実的じゃないですよ、先生。
てか、なに怒ってるんですか。

「…………あー、…一気に潰してぇ」

なに不穏なこと呟いてんですか、ルイメイさん。

「私は、リヴァースと半分こするのよ!!」

ラブラブですね、カウンティアさん。

「う、うん。で、でも みんな 争いはやめようよっ!」

あー…やっぱり貴方は癒し系です、リヴァースさん。

「てか、レイフォンは私(俺・僕)のだ(です)!
すっこんでろ(いなさい)!」×9(リンテンス、リヴァース除く)

いや、それは断じて違うと思いますよ。


ちなみにリンテンスは

てめーらみたいな危ねぇヤツらがいるから、俺が、苦労するはめに 云々 と言い、リヴァースはカウンティアはレイフォンの姉の座を狙っているんだよ、とリンテンスに進言していた。

うん、皆さん(一部除く)、見事に僕の人権とか無視ですね。

ふぅ…と溜め息をはいた。

会話しながら(成り立っているとは あまり言えないが)戦闘中な天剣達に、あぁ どうしたものか…。いや、僕には 最早 何も出来ない。うん。てか…もう帰りたい。とレイフォンは現実逃避していた。

「あらー、レイちゃん、おっかえりー」

そんなレイフォンに、部屋の主が嬉々として話しかける。
話しかけるだけならば 別によい。
だが、女王は後ろから ぬっ と現れ、レイフォンの脇に腕を通し、ぎゅむ、と掴んできた。
何を?胸を、だ。

「ああ…あらやだ、なかなか発育しないわねぇ」

…この人、陛下じゃなかったら 本気で ぶっ飛ばしたい。
いや、返り討ちにされるからしないけど。

「やめてください、陛下」

「まー、つっまんない反応〜。
あ、ぁん… とか色っぽく喘いでくれたら萌えるのに」

「意味がわかりません」

「いや〜、レイちゃんがお子ちゃまで 良かったわ」

女王は勝手に納得し、勝手に解決したようで、レイフォンから離れ、満足そうに頷いた。

そして唐突に言う。

「さて、行きましょ!」

「はい?」

どこへ?

「んー、 外にしようかな〜。
今日は 暖かいし」

「え?いや、あの、……あっちは放置ですか?」

女王の言葉に白黒しながら、レイフォンが あっち…天剣達の争いを指差した。

それに女王は、それはそれは美しく、棘だらけの薔薇のような優雅な笑みを、その顔に浮かべ、あっけらかんと言った。


「うん、放置!
リン〜、後よろしくねー」

その声は、おそらくリンテンスにも届いただろうが、返事は返って来なかった。

「さ、お待たせ!
お腹 空いたでしょ?
ご飯にしましょ」

「え、う、でも、……あ、はい」

「全く…あいつらもレイちゃんとご飯 食べたいだろうとアルシェイラ様が気ぃ使ってやったってのに、結局 力ずくなんて、ダメなヤツらねぇ」

(いや、陛下、絶対 楽しんでましたよね。
仲間割れを)

やれやれ、とわざとらしく手をふる女王にレイフォンは心の中だけで ツッコミを入れた。
そのまま女王に促されるままに部屋を退出。
後で どうなったか見に行かないと…、と変な義務感に襲われながら、はあぁ…と溜め息をはきだした。








ちなみに数時間後にレイフォンが訪れた時、部屋は崩壊寸前、戦闘は天剣達が疲れたのか、ただの口喧嘩になっていた。

そして、数時間前には無事であった弁当が、…可哀想なことに…食べられる状態ではなくなっていた。

そのことに、庶民、特に貧乏人、そのまた特に主婦・主夫の味方・レイフォンが、食べ物を粗末にするなーー!!と これまでになく、でっかい雷を落としたのは、当たり前のことで、
天剣達(デルボネを除く)を、正座させ、言い訳しようとする どうしようもない同僚達を「うるさい、黙れ、ぶっ飛すぞ」と低音で脅して黙らせ、くどくどと説教したのは、…天剣達の記憶に、一種のトラウマとして永久に焼き付いたことだろう。







「まったく……なんで お弁当ぐらいで こんな喧嘩するんですか…」

お前(レイフォン)が 作ったのが 欲しいんだよ!!


大部分の天剣達の心の叫びは、悲しいことに…届くことはなかった。

日参している携帯サイトぽつり。のゆく様からキリ番リクエストでいただいたレギオス小説!みんなレイフォン大好き!(笑)。素敵過ぎて顔がにやけっぱなしですv

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