恋人宣言
「陛下、僕たち付き合うことにしました」
天剣たちが集まる会議。
定期報告だけで終わったその日、さぁ、これで開放されると歓迎ムードが漂っていた中それは起きた。
いつもはめんどくさそうに、そしてつまらなさそうに隣に座るレイフォンを延々眺めているはずのサヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスが突然報告があるといい始めたのだ。
そして、言い放ったのは冒頭の言葉。
隣に座っていたレイフォンを持ち上げ、抱き寄せるサヴァリス。
レイフォンは眠たそうな目をしたまま固まっていた。
最初はサヴァリスの視線が気になって仕方なかったようだが数ヶ月も経てばすっかり当たり前になったようである。
最高権力者はヒクリ…と頬を引きつらせ、その後ろに控えていた女性はまぁ、と頬に手を当てる。
その他の反応は…これから始まるようだ。
しかし、誰が反応するよりも早く、青年に抱えられていた少年が現実に戻ってきた。
「さっ、サヴァリスさん!!ナイショにしましょうって言ったじゃないですかぁっ!!」
悲鳴を上げたのは少年…レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ。
僅か10歳で最年少天剣授受者となり、同時に現在の天剣たちの心を鷲掴んだ少年だ。
以来、血で血を洗う低レベルな争いがそこかしこで勃発していたが、今ここに終結…を見るかもしれない。
少年の言葉に青年の戯言ではないと悟り真っ白になるもの数名。
その中に自他称少年の第二の父、リンテンス・サーヴォレイド・ハーデンが混ざっていた。
真っ黒な男が真っ白になるなんてそうそうあることではないが、今は気に留める者など誰一人としていない。
「サヴァリス……あんた…っ、私の可愛い可愛いれーちゃんに…っ!このショタコン!!」
拳を握り締めて歯軋りするのは都市の最高権力者・アルシェイラ・アルモニス。
「いやだなぁ、そんなこと言ったらここにいる全員がそうでしょう?」
にこーと幸せオーラを前回にするサヴァリスは普段が普段なだけに非常にキモチワルイ。
アルシェイラはそれを口元に手を当てることで乗り切った。
「つぅかよ。お前それでいいのかよ。仮にもルッケンスの長男だろ?」
トロイアットが外堀を指摘して軽くジャブを放つ。
アルシェイラはよくやった!と拳を握った。
「あぁ、親父殿に家か僕かどっちにする?って言ったら許してくれましたよ?」
「「「「「それは脅したっつーんだよ」」」」」
異口同音にそれぞれの語尾をつけて盛大にツッコミが入った。
なんだその聞いたことない二者択一。
「〜〜〜〜っ、さ、サヴァリスさん…っ!」
だんだんと赤裸々にされていく自分達の関係にレイフォンは耐え切れずにサヴァリスの袖を引いた。
小麦色の頬は真っ赤に染まり、その蒼穹からは今にも雨が降り出しそうだ。
サヴァリスはそれを見てきょとん。とした後笑顔でテイクアウトを申し出たが女王以下天剣たちが許すはずもなかった。
「汚染獣のエサにしてやろうか……」
お帰りお父さん。
娘の旅立ちにちょっと彼方へ意識を飛ばしていたリンテンスが帰ってくる。
シャキン。と一瞬にして張り巡らされた鋼糸は全員をそこに縫いとめた。
「ちょっとリンー、やるならそこの犯罪者だけにしてくんない?」
「レイフォンを抱えている」
もはやリンテンス専用のお守り機能まであの少年はつけているらしい。
「くそくそくそくそ……レイフォンを返せ!!」
バーメリンがその薄着から真っ黒く分厚い本を取り出す。
どうやらナニカを召喚するらしいがそれは全力でカルヴァーンが止めていた。
「最近の若者は進んでますなぁ」
「そうですねぇ……でも、10歳差はちょっと大きすぎるのではないかしら?」
ティグリスとデルボネがのほほんとそんな会話を交わす。
緑茶の香りが今にも漂ってきそうだ。
「わーんっ!リヴァース!!レイフォンは私たちの子供にする予定だったのに…っ!」
「てぃ、ティア……うん。僕もレイフォンみたいな可愛い子だったらいいな」
馬鹿サヴァリスに取られた…っ!と嘆くカウンティアの言葉に真っ赤になったリヴァースだったが一瞬の後にコクリと同意する。
「子にするまえに嫁に行きそうだな…」
ルイメイがボソリと突っこんだ。
「ていうかさ、うちは16過ぎないと結婚できないのよ…?」
嫁、嫁とたまに出てくる単語にアルシェイラがボソリと零す。
「知ってますよ?でも、今から言っておかないと後で邪魔が入っても嫌ですから」
一応考えてはいたらしい。
無駄に周到な辺りに青年の本気を感じ、アルシェイラはヒクヒクと頬を引きつらせた。
次いでぐりん。とレイフォンを見る。
その瞳は血走っており、レイフォンはビクリと身体をすくませた。
「れーちゃんっ!れーちゃんはいいの!?こんな戦闘狂!絶対苦労するわよ!?でも大丈夫!!離婚するときは裏から手を回して調停長引かないようにしてあげるし、賠償金ももちろんこっち持ちにさせてあげるから!!」
結婚祝いは離婚届ね!!
ていうか、今からでも遅くないわ!!考え直してれーちゃん!と目にも留まらぬ速さ(比喩でなく)でレイフォンの手を握った女王。
リンテンスの張った鋼糸は彼女の一挙で払いのけられた。
女王様ご乱心である。
レイフォンは目を白黒させながらえ?えぇ?と首を傾げた。
こてん。と斜めに傾いた頭にアルシェイラは可愛いぃぃっ!と叫んだ。
グレンダンのお先は暗い。
「大体、そいつ一に戦闘二に戦い、三四も戦闘五に汚染獣だろ?レイフォンを幸せにできるとは思えねぇなぁ…」
俺なら心行くまで満足させてやるぜ?
そう言ってにや…と笑うトロイアットに「アレは下半身だけで生活してる男なんですよ」とサヴァリスがレイフォンに教えている。
「あぁなっちゃダメだからね?」
「??よくわからないですけど、トロイアットさんは参考になりません」
レイフォンは戦闘においての話をしたつもりだったが、邪気のないその言葉に下半身男は泣き崩れた。
「だいたい…………ね?」
ボソボソと何事かをレイフォンの耳元で囁くサヴァリス。
問いかけられてぽんっ、と赤くなったレイフォンは視線を右へ、左へと動かしてついにはコクン、と頷いた。
「「「「「子供相手にナニをしたーーーっっ!!?」」」」」
リンテンスは予想だにしなかった弟子の成長に涙目だ。
「れーちゃん、マジ、ほんっっとうに、も一度考え直して?コレよ?ホントにコレでいいの!?」
「世の中広いですからなぁ」
「まぁ、いろいろ見てからでも遅くはないのではないか?」
「くそ、死ねサヴァリス。レイフォン返せ」
「レイフォンはあたしたちの子供になる予定なのよ!!」
「うん」
「レイフォン、孫に会ってみないかしら?」
「ソレはまぁ、やめたほうがいいんじゃねえか?」
「俺は許さん!!」
ギャァギャァとやれ反対だ。やれ許さんと騒ぐ女王陛下と愉快な仲間達。
かつて彼らがこんなに一致団結したことは…なかったはずである。悲しいことに。
「………そんなに、駄目ですか…?」
レイフォンが悲しそうに眉を寄せた。
ピタ。と辺りが静まる。
「僕、そんなに駄目ですか…?」
しょんぼりと項垂れたレイフォンに慌てたのは周囲の人間。
サヴァリスは宥めるようにレイフォンの髪を撫でてやっている。
その姿にびっしばっしと殺気が突き刺さるがそこは戦闘狂。実に楽しそうである。
サヴァリスの手にぐりぐりと頭を押し付けているレイフォンにアルシェイラ以下略はなんって羨ましい…っ!と歯軋りした。
結局、決定的に反対ができずに押し切られてしまった女王と天剣たち。
サヴァリスは結果が見えていたのか実に満足そうである。
「今度はお義父上に挨拶に行こうか」
「勘弁してください。ホント止めてくださいサヴァリスさん…」
レイフォンの懇願が届いたかどうかは誰も知らない。
因みに誰一人として指摘しなかったが、グレンダンでの結婚適用年齢は「女子」16歳・「男子」18歳である。
現在12と少しを数えたレイフォンが16で結婚できるはずもない。
少年はすっかり慣れてしまい、大人たちは完璧に「娘」として扱っている。
これを誰かに突っこまれる日がくるかは誰も知らない。
何はともあれ、天剣の中に2組目のカップルが誕生した瞬間だった。
「サヴァリスさん、内緒にしましょうって言ったのになんで言っちゃったんですか!?嘘つき!!」
「おや?僕はわかったとは言ったけど、いいよとは言ってないよ?レイフォンの言い分はわかったけれど、それを了承したなんて言ったかな?」
「〜〜〜っ、ヘリクツですよそんなん!!」
「………愛してるよ?レイフォン」
「っっ!ぅ〜〜〜、そ、そんなんで誤魔化されませんから!!」
「そうかい?それじゃあ言葉じゃなくて態度で示してあげようか?」
「……へ?い、いや、あの…っ、ご、ごめんなさ……」
一枚も二枚も上手な青年に少年が勝てる日が来るのかは……都市の電子精霊すら知らないのではないだろうか?
日参している携帯サイト
鴉の王冠
のクロハネ様からフリリクでいただいたレギオス小説!「サヴァレイでおつきあいの報告を他の天剣's+女王にしにいっていろいろ勃発(何が?!)なギャグというアホなもの」というなんか物凄い思いつき感満載なリクエストに素敵に答えてくださいましたクロハネ様に感謝です!素敵過ぎる・・・!
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