遠回し狼 と にぶにぶ兎









「レイフォン、付き合ってくれますか?」

「はあ?いいですけど。…どこにですか?(今日、汚染獣…来てたっけ…?)」

「人生の終着点まで」

「?そこまでは いやです」

「一緒の墓に入りませんか?」

「?普通に無理だと思いますけど…?」

「…なかなか手強いですね」

「なにがですか?」




「…では数年後、教会まで付き合ってください」

「どんだけ先の約束ですか、それ」

「ええ、レイフォンが16になったら、ですね」

「はあ…?……覚えていたら、付き合ってあげてもいいですけど、僕、記憶力 悪いですよ。
てか、サヴァリスさんでも懺悔したいことがあるんですね!」

「……その笑顔が眩しいよ、レイフォン」












遠回し狼 と にぶにぶ兎











「と、言うわけで、教会に行ってきます」

ぺこりと、可愛らしく頭を下げた、最年少の天剣授受者に、王宮の一室にて会議を終えた天剣ズと女王陛下は 待てぇい!と突っ込んだ。

「待ちなさい!ちょ、レイちゃん!
騙されてるわよ!それ!」

「そうだ、バカ弟子」

「しかも この戦闘馬鹿が懺悔なんぞ するわけねーだろ!」

上から女王、リンテンス、バーメリンの主張である。

バーメリンなど 明らかな敵意を、レイフォンの隣で にこやかな笑みを浮かべる戦闘狂に向け、言い放った。

「ひどいですね、皆さん。
ねえ、レイフォン?」

バーメリンや他の天剣ズ+女王から発せられる敵意をにこやかに流しながら、糖度100%な甘ったるい声音で彼の戦闘狂は隣にいる 不思議そうな表情で敵意バリバリな同僚+上司を見ている少女に言い、ちゃっかり その肩に腕をまわす。

レイフォンはというと、腕がまわされたことに対する嫌悪だとか驚きだとかはないようで、慣れた様子で反応を示さなかった。

ただただ、不思議そうに、教会まで付き合うだけなのに、皆さん 何を慌てているのだろう、と首を傾げる。

「どうしたんですか?皆さん」

「どうしたも こうしたもあるか!!
レイフォン、お主なあ。
16の少女が男と一緒に教会などっ」

髭親父、もとい、広範囲に苦労性なカルヴァーンが叫ぶ。

「いや、一般的には男女が教会に懺悔でも祈りでも、おかしくない、が、こいつは違う。
明らかに目的が違うぞ」

それにレイフォン関係に限り苦労性なリンテンスが引き継いだ。
尊敬する師匠に、いつにも増して渋顔され、流石にレイフォンも不安を覚えたようで、体を少し斜めにして、肩に腕をまわしている同僚を見上げた。

藍色の大きな瞳が 何か問いたげに揺れるが、何を尋ねたらいいのかも よくわからないようで、端正な顔立ちを何も言わずに見つめる。

小首 傾げ+上目づかいな様子は、それはもう、とてもとても愛らしく、その場にいた大人達(リンテンス除く)は抱きしめたい衝動に駆られたが、それに一番 近い位置にいる、つまりベスト ポジションを陣取っているサヴァリスを睨む。


「僕達、付き合ってますものね、レイフォン?」

にこにことサヴァリスは言う。
レイフォンはというと、少し考える仕草をし、後に頷いた。

「まあ、今から教会まで、ですけどね」

食い違っている。
決定的に、致命的に、有り得ないくらい、見事に食い違っている。

付き合っている の意味が違う。
どこの少女漫画だ。どんなヒロインだ。
というか、先ほどの冒頭部分から考えると、5年も この状態か。
よく我慢したな、サヴァリス。
ある意味、同情はする。
しかし、レイフォンはやらんぞ。

天剣ズと女王の心は一つになった。

レイフォン関係ならば、とことん団結する天剣ズ+女王である。


「レイちゃんは、サヴァリスのこと、好きなの?」

ギッ!とサヴァリスを睨みつけた後、女王は問うた。
違うわよね〜、違うと言って〜 というオーラを放ちながら、レイフォンに詰め寄る。
問われたレイフォンはというと、女王に向き直り、にっこり笑う。
例えるならば、ひまわりみたいな笑顔で、

「はい、好きです」

混じり気のない素直な声音で答えた。

女王+天剣ズに10万のダメージ!
笑顔の可愛らしさと言葉の内容の衝撃にダメージを受けた。

サヴァリスの得意気な様子が心底 憎らしい。
なんだ、このヤロウ。
皆のレイフォンを奪うなよ、コンチクショー。


「じゃぁ あ、…愛してる?」

「愛してはないです」

ズバッ!
サヴァリスに15万のダメージ!

これで 僕はサヴァリスさんを愛しています とでも言われたならば、女王たちは引き下がっただろう。
この子の幸せが第一なのだ。
相手がレイフォンを幸せにできそうにないならば、相手をぶちのめせばいい。

だが、違うらしい。
相変わらず 明るい笑顔のレイフォンは、自分がどれだけ周りに影響を与えているか、わかっていないのだろう。

隣の男など、もはや瀕死の状態なのに。
どんな汚染獣だってつけれない重傷を負わせているのに気付いてすらいない。

まあ、んなことは置いといて… と女王+天剣ズは拳を握った。

よし、あの戦闘狂に大事な大事なレイフォンを、盗られたわけではないようだ。
まだ未遂。
なら徹底的に防ぐぞ。

目と目で会話する。

瀕死状態の銀色から、レイフォンを取り上げる。
戦闘狂の腕から抜け出したレイフォンは はて?と相変わらず、質問の主旨がよくわからなかった様子で首を傾げ、促されるままに移動。

「じゃぁ、どうしてサヴァリス“に”付き合ってあげてるの?」

“と”ではなく“に”という辺り、女王も人が悪い。

「…あげている、というよりは、僕がつき合わせていたりもするのですが…」

質問に違和感を感じたようでレイフォンが少し困った顔をした。

「つき合わせている?」

「はい。弟達が動物園 行きたいって駄々こねた時に、うちの院の子達 全員で動物園 連れていってくれたり、妹達が遊園地 行きたい、って行ったら、またつき合ってくれて。小さい子をあやしてくれたりして…
サヴァリスさんは 本当に優しいです」

あっれー?あの、戦闘狂?
何気に涙ぐましい努力をしてますね。

一ミクロンも 通じてないが。

しかし、…

「邪魔者(孤児院の子ども達)がいるものの、それって…デート?」

ピリッ、と空気に何かが走った。

「でえと?」

「…レイフォンは知らなくていいわよ」

デートの意味さえしらない、普通はそういうことに興味津々なはずなお年頃のレイフォンにカウンティアは優しくやんわりと追求を拒んだ。

レイフォンの言葉に瀕死状態のサヴァリスの胸倉を掴む。

「あんた、私達を出し抜いて、何 レイフォンと遊びに行ってんのよ!」

そのままガクガクと揺する。
高速で揺する。銀色が揺れる。陽炎のように。

「あの、えっと、本当にどうしたんですか?
…僕、そろそろ行かないとなんですけど」

頼れる姉貴分の怒りようにレイフォンが 内心、仰天しながら言った。
そうしたら今度はカナリスが詰め寄ってきた。

…本当に、今日はいつにも増して、皆が変だ、と失礼なことを思いながら、上司の影武者兼 同僚の必死な様子を見る。

「レイフォン!貴女、結婚する気ですか?!」

「………………………………は?」

ちょっと言葉の意味が理解できなかった。
自分とはかけ離れた単語だったから。

鳩が豆鉄砲 くらったみたいに、ぽかん とする。

「こいつと一緒に教会なんて、婚礼の儀に行くようなもんだぞ」

…はい?
冗談を言っているような感じではない。
というか、カナリスと、カナリスの言葉を引き継いだ リンテンスは冗談を言うような人ではない。

けっこん…?
血痕、ケッコン、……結婚?

「きっとサヴァリスのことだ、いい雰囲気をつくって、どさくさに紛れプロポーズでもして、レイフォンを丸め込んで ゴールインする気だったのだろう!」

はい?てか、何気に失礼じゃないですか?カルヴァーンさん。
僕は 頭は悪いけど、そこまで馬鹿じゃないですよ、……多分。

口には出さずに、というか そうに決まっている!みたいな言い方に反論できず、心の中で思う。

「だから 教会なんて 行っては駄目だ!」×11

「…はあ…」

声を合わせる陛下+天剣ズに、都市で最高の地位にいる人々に曖昧に返事をする。

とりあえず、こういうのは本人に訊いた方が早いと思う。
こう言っては失礼だが、己が強くなることを極まんとする天剣達は あまり他人の意見を聞かない。
天剣ズと6年の付き合いのレイフォンは そう思った。
なんか いつも よくわからない暴走するんだよなぁ、と 呆れにも似た感情を覚える。

なんとなく元気のないサヴァリスに近寄る。

「サヴァリスさんは、僕と結婚なんてするわけないですよね」

普通に思ったことを 自然に紡ぐ。
いつもの元気が見当たらない、ちょっぴり憔悴した様子のサヴァリスは 少し憂いを秘めていて、切なげに寄せられた柳眉だとか、端正な顔立ちだとか、いかにも貴族な雰囲気を醸し出していて、レイフォンはそう尋ねた。

だって、貴族が孤児を娶るとか、どこのシンデレラ ストーリーですか、僕がなった場合、そんなの笑い話にしかならないだろう、などと思ってしまう。


「だって(僕なんかが)サヴァリスさんと結婚なんて、考えられないですもの」

まったく、何 勘違いしてるんですか、師匠も皆さんも。
僕なんかと そんな勘違いされた、サヴァリスさんが可哀想ですよ。

腰に手をあて、ちょっとだけ怒る。
こんなへんてこな誤解が解けて、さぞサヴァリスも安心しただろう、と胸をなで下ろしながら、銀色の戦闘狂の方を見る。

「……あれ?サヴァリスさん?」

銀色の戦闘狂は、絶望のポーズで打ちひしがれていた。


フォローのつもりが、自らがこの同僚にトドメを刺したことにレイフォンは これっぽっちも気づかず、この人はなにしてもさまになるなぁ、美形っていいなぁ と のほほんと再起不能そうな銀色を眺めていた。








「それで、サヴァリスさんは どうしたの?」

「ん?今日は いいです って。結局 何がしたかったんだろうね」

「……とりあえず、レイフォン。

人の意見 聞かないのは、レイフォンもそうだから」

「え?なんで?ちゃんと聞いてるよ?」


いえいえ、もしレイフォンがきちんと人の話を聞く人物ならば、サヴァリスの主張を聞かずに、断定系の質問をするはずがないでしょうが。

「ちょっと、リーリン?」

孤児院の台所にて、ぐつぐつとした鍋をかき混ぜているリーリンを、野菜を切っているレイフォンが覗きこむ。

「…まぁ いっか。
レイフォンは いつまでもレイフォンでいてね」

その鳶色の頭を ぽんぽんと撫でる。
そろそろかな、とは思っていたが、あの銀色の戦闘狂に妹をとられるのは やっぱり気に入らない。
そりゃ色々と弟妹達の面倒も見てくれたし、いい人であるのは わかるのだが。

もう暫くは、私達のレイフォンでいてほしい。

そう思ってしまうのは、我が儘なのだろうか。


「レイフォン、恋人ができたら、ちゃんと私にも言うんだよ」

親父のようなことを姉が言うので、レイフォンは 思わず吹き出した。

「そんなの、僕にできる時がくるのかなぁ」

「それが立候補生はいるわけよ、たっくさんね。
ちゃんと私の眼鏡に叶わないと、交際は認めませんから」

なにそれ、とレイフォンは笑う。
なんか今日はリーリンまで変だ。

「じゃあリーリンも恋人ができたら ちゃんと言ってね。
僕がリーリンに釣り合う相手か、見極めるから」

「ちなみに その基準は?」

「僕より 強いか否か!!」


…それって 私に生涯独身でいろ、ってことかしら…?

天然な妹に 苦笑を向け、でも そこも可愛いとか思ってしまう。

うん。やっぱり まだ、あげない。
年収だとか、生活習慣だとか、性格だとか、色々な面から大切な妹に相応しいか否か、サヴァリスを観察してきたリーリンは、実のところ、彼に妹を渡してもいいかもしれない、と少しだけ考えていた。
が、考えが変わった。

まだレイフォンにその気もないようだし、確かにサヴァリスを好いてはいるが無自覚なのだ。
無理に自覚させても、悩む妹を見るだけであるし、今、妹をとられるのは、嫌だ。とても癪だ。


…とりあえず、リーリンが妹離れするまでは、サヴァリスを筆頭にレイフォンに言い寄る連中は リーリン・マーフェスとレイフォンの同僚+上司が徹底的に撃退することになるだろう。


ようやく より直接的なアプローチをし始めようという戦闘狂にとって、とても高く、険しい壁が、出来上がった瞬間であった。


「レイフォンはサヴァリスさん 好きよね?」

「うん。…てか今日、陛下にも そんなこと聞かれたよ」

「そう。…ね、私とサヴァリスさんなら、どっちのが好き?」

「?比べるまでもなく、リーリンだけど」


サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスの受難は、実は始まったばかりであった。

日参している携帯サイトぽつり。のゆく様からキリ番リクエストでいただいたレギオス小説!サヴァリスさんが不憫すぎて笑えます(え)。素敵です。レイフォンが鈍すぎてかわいいです。もう、最高・・・!!

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