そんな扱いでも僕たちは甘受してしまう

それはある日の正午前。
僕は綱吉くんの執務室に呼び出されていた。

部屋の前に着く。
もちろんノックしてから扉は開ける。


「綱吉くん?何の用事で、」
「………」


そこにいたのは綱吉くんだけではなかった。


「おやおや、貴方も呼び出された訳ですか、雲雀恭弥」
「君には関係ないでしょう」


途端に殺気立つ雲雀恭弥。これだから会うのは嫌なんですよ。


「まぁまぁ、二人とも。落ち着いて?」
「僕は何時だって落ち着いてますよ?綱吉くん」


柔和な笑みを浮かべながら綱吉くんの座っている椅子へと近付く。
雲雀恭弥に倣い、机の前に立つ。


「で?ここに雲雀恭弥がいるという事は何か用事ですか?」
「うん。ちょっとね」


そう言って綱吉くんが机の上に出してきたのは書類の束。


「ちょっと五月蝿いファミリーがいてさ、そこと話し合いしてきてほしいんだけど」


そうして僕たちを見る。


「この仕事を二人のどっちかに任せたいと思う」


そう言って笑う綱吉くん。


「どう?」
「どうもこうもありませんね。愛しい綱吉くんの頼みとあらば僕は何時だって、何だってしてみせますよ?」
「ちょっと」
「はい?何ですか、雲雀恭弥」
「それ僕がやるよ」


僕の方を見もせずに言う雲雀恭弥。
嫌われている、とは思うものの僕にとってはどうでもいい。
彼、綱吉くんにさえ嫌われていなければ。


「別に僕でも問題は無いでしょう?」
「そうですね」
「報酬は?」
「そうですねぇ、」


考え込む綱吉くん。
すると何か閃いたのかにっこりと笑う。


「この後お昼ですけど、何か食べるっていうのはどうですか?」


それは、


「綱吉くん」
「何?骸」
「その仕事、是非とも僕にやらせてください」
「待ってよ」
「はい?雲雀さん」
「僕がやるよ」


雲雀恭弥もこれをやると言う。


「雲雀恭弥」
「何?」
「貴方、色々と忙しいんじゃないんですか?」
「君には関係ないでしょう」
「僕に任せたどうですか?」
「それも君には関係ない」


横目で雲雀恭弥を窺う。
どうやら譲る気はないようで。


「二人とも」
「はい、何ですか、綱吉くん」
「何?綱吉」
「落ち着いて。まぁ、クッキーでもあるから食べてよ。あ、お茶持ってくるね」


紅茶でいいよね、と言うと立ち上がり隣の部屋に備え付けてある簡易キッチンへと向かう。
それはドン自ら行なう行為ではないけれども、そんな彼のやり方が僕は好きで。


「君も食べたらどうですか?クッキー」
「いらない」


僕はクッキーを摘みながら雲雀恭弥に話し掛ける。


「君、わかってるの?」
「何がですか?」
「…もういいよ」


雲雀恭弥は一つ溜息を吐くと何も言わなくなった。
暫し、沈黙の時間が流れる。


「ミルクと砂糖は好きに入れてね」


そう言いながら綱吉くんが紅茶を二つ盆に入れて持ってくる。
僕はそれを受け取りながら彼に話し掛ける。


「その仕事ですが、」
「うん?」
「僕がやりますよ」
「骸」
「はい」
「お前、クッキー食べた?」
「はい、いただきましたよ。ちなみに雲雀恭弥は食べていません」
「そっか」


すると綱吉くんは少し考えた後、「じゃあ、骸に任せる」と言ってきた。


「わかりました、任せてください。じゃあ、もうお昼ですから。一緒に何か食べに行きましょうか?」
「あ、それだけど、骸」


と、執務室の扉が乱暴に開いて、


「ゔお゛ぉい、綱吉」
「あ、スクアーロ」


綱吉くんは嬉しそうに彼、ヴァリアーのスクアーロの元へ向かう。


「綱吉、もう昼だぜぇ?」
「うん。わかってる」


微笑みながらそう言う綱吉くん。


「一緒に昼飯食いに行くか」
「ちょっと、」
「あ゛?」


僕は二人に声を掛ける。


「先約は僕ですよ、ねぇ、綱吉くん」
「それなんだけど、骸」
「はい?」


綱吉くんは実にいい笑顔で言った。


「何時、俺がお前と昼ご飯食べるだなんて言った?」


それは、


「確かに「この後お昼ですけど、何か食べるっていうのはどうですか?」とは言ったよ?でもお昼ご飯とは言ってない」
「ですが、食べるというのは、」
「食べたじゃん、クッキー」
「………」


確かに僕は食べた、綱吉くんに勧められたクッキーを。


「…そういう事ですか」


僕ははぁ、と溜息を吐いて言った。


「じゃ、そういう事だから。その仕事頑張ってね、骸」


行こう、と言ってスクアーロを促し部屋を出て行く綱吉くん。
扉が閉まり、僕と雲雀恭弥の二人だけが取り残される。

沈黙。

そんな沈黙を破ったのは、


「ねぇ」
「はい?何ですか雲雀恭弥。僕は今傷心中なんです」


雲雀恭弥が徐に声を掛けてきた。


「君、気付いてたでしょ」
「何の事ですか?」


僕は微笑みながらそれに応じる。


「綱吉が最初からお昼ご飯を一緒にする気が無いって事」
「………」
「気付いてたから、わざとクッキー食べたんでしょ?」


それは疑問形でありながら確信に満ちた声だった。


「君、案外献身的なんだね」
「そうですよ、僕は彼にだけは尽くすんです」


僕はにっこりと雲雀恭弥に向かって微笑みかける。


「彼を、綱吉くんを愛してますからね。彼が幸せならそれでいいんですよ」


綱吉くんはスクアーロと付き合っている。
そんな彼が僕と一緒に昼を過ごすとは思えない。
だから僕はわざとそれに乗った。
彼が幸せであるように。

綱吉くんはあれ、スクアーロと共にいる方が幸せなんだろう。

なら、


「彼のためなら僕は幾らでも僕自身を犠牲にしてみせますよ」


そう言いいながら僕は部屋を出ようとした。


「僕だって、」
「はい?」
「僕だって綱吉のためなら自分ぐらい幾らでも犠牲にできるさ」


それは、


「お互い不毛な恋をしてますねぇ」


そう言って僕は、そんな僕たちに向けて微かな憐憫の情をこめながら微笑んだ。

日参している携帯サイト電気羊の見る夢。の芥様からランダムキリバン30303HITでいただきました。リクエスト内容は「骸→ツナ←雲雀なんだけど結局スクツナ」でした。スクツナ大好きです。素敵ですvありがとうございました!

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