結局は、いつも通り
「よーし!今夜は 無礼講よぉ!飲んで飲んで、飲みまくりなさーい!!」
「……僕、未成年なんですけど」
「ま!そんなの見ればわかるわよぉ。
レイちゃんは ジュースね。あとご飯。
あれ?最近 痩せたんじゃない?
ちゃんと食べてる?」
「…抱きつかないでください。大丈夫です。心配には及びません。
…あ、でもタッパー 詰めてっていいですか?」
「…………いいわよ……もう たんと持っておいき…。
ごめんね、レイちゃん」
「いえ、…ていうか 何しんみりしてるんですか、皆さん」
タッパー片手に、持って帰る気満々な最年少天剣授受者に、女王と他の天剣たちは なんだか物悲しい気分になったのだった。
***
飲み会。はめを外して、酒に溺れる者もあれば、それを諫める大人もいる。
天剣ズはというと その間、適度に飲んで、適度に騒ぐ。
元々 皆で集まって飲むほど、仲が良いわけでもなく、険悪な者もいれば良好な関係の者もいる。天剣色々だ。
…であるからして、本来 天剣12人全員が集まり、飲み会など仲間内で騒ぐことや社会人らしい社交ともとれる集会やら脂臭い親父の酒と煙草と女溢れる宴会はしない。
今回、その人間の属する集団によって形の変化するといわれる飲み会は、一人の少女のためといっても過言ではない理由で行われた。
その少女というのが、
「すみません。このお饅頭、消費期限はいつまでですか?」
せっせとタッパーに豪華な食事を詰めに詰めている、3年前に最年少天剣授受者となった子どもである。
最近、この子どもはどうにも大変そうなのである。
どこをどう見ても、きちんとした食生活を送っていない。
しかし幼いながら天剣授受者という武芸者にとって頂点といえる立場に立った少女は自分の弱みを見せるのを極端に嫌う。
プライドとか意地とか、そういったものに幼い思考回路と育った環境が災いし、大人の好意をとことん跳ね返すのだ。
故に、この飲み会という名を被ったお食事会は子どもをえらく気に入った女王+天剣ズによる“レイちゃんになんとしてでもお腹いっぱいご飯を食べさせようの会”なのである。
飲み会と称すれば、子どもも自分に憐れみを向けられているなどと誤解することもなく、大人は普段は構えない子どもをめいいっぱい構うことができ、尚且つ 子どもの空腹を満たすことができる。
女王曰わく、夢のように最高な企画!流石 私。天才だわ。 である。
“レイちゃんに(以下略)”は順調に進んでいた。
女王+天剣ズは子どもに悟られることなく、さり気なく、時々 強引に子どもに食事を勧めていたが、子どもも美味しそうに箸をすすめ、かなりの量は彼女の家族のためにタッパーへと消えたが、子どもの胃は満足できたようである。
いやー、よかった。よかった。
うん、うん、と女王は一人、上座で頷いていた。
酒豪な女王は酔わない。むちゃくちゃに飲んでいたが、意識はしっかりとしているし、思考もできる。
しかし、しかし、ふっと見てしまった光景に女王は一瞬 息を止め、目を擦り、瞬きする。首を捻り、少し離れた位置で食事をしていたお気に入りを見た。
「せんせぇ、あつい、です」
舌っ足らずな口調に潤んだ瞳、上気した桃色の頬、小さな手が胸の位置の服を掴み、パタパタと仰ぐ。
そのまま服を脱ごうとする少女の腕を少女に熱い視線を送られている黒ずくめの男が掴み、止めさせようとするが、少女は一瞬 目を見開いて、やがて細めて、小首を傾げた。
「てんて、なぁに?」
なに、じゃねぇ、馬鹿弟子。と男が呟くが、聞いてやしない。
ほわほわした、しかしどことなく艶さえ感じられる空気を発しながら、少女は師の自分の腕を掴んでいる手に指を這わせる。
「からだ があついんです。
ねぇ、…たすけて?」
いやいやいやいや!あの子が自分から助けを求めるとか有り得ないから!
というか、ちょ、そういうこと男に言っちゃだめ!!
リンは狼足り得ないから大丈夫だとは思うが、リンと反対側にいるサヴァリスなんかに言った日にゃぁ、もれなくお持ち帰りされるわよ!というか前かがみになるな!リンとリヴァース以外の男性陣。お前ら一応、女に免疫あんだろうが!
ちなみに私が言われたら即お持ち帰りすれけどね!!
女性らしからぬ男前な口調と自慢できない自慢を心の中でしながら、女王は珍しく表情が崩れ、困惑した顔を晒す男と誰が見ても様子のおかしい少女を観察した。
もし少女が絡んでいるのがリンテンス以外の男であったなら、女王はすかさず相手を撃退し少女を自分の方へと攫うだろうが、リンテンスは少女にとっても女王にとっても信頼できる相手であるし、女王としては困っているリンテンスを見るのは楽しい。
(あらら、誰がレイちゃんに飲ませたのよぉ)
頬を抓り、これは夢ではないことを確かめた後、女王はふぅと息を吐き出した。
少女のための膳と同じ位置に、空のコップを見つけたのだ。
そのことにリンテンスも気付いたのだろう。
目を釣り上げる。
飲んだのか?
唇がそう動くのが見えたが、少女はにへら と可愛らしく微笑んで、陽気に首を振った。
「のんでない ない です よぉ。
あまい の、そこにあったジュース、です」
「いや、飲んでるだろ」
冷静なツッコミをいれるリンテンスだが、どうしたらいいのか わからないのだろう。
少しだけ後退りしている。
だが、少女もまた天剣。
逃がすものかと前進し、
「えい!!」
妙に幼い声で師に抱き付いた。
そのまま首に腕を絡め、女 の視線で師を射る。
「せんせ?
……せんせ の、ちょうだい?」
耳元に、少女が唇を寄せ、そりゃもう甘えに甘えた声で囁く。
ちなみに少女は暑いので先生の飲み物をください、という意味で頼んでいるのだが、如何せん、言い方が悪かった。
リンテンスは目を見開き、可哀想なくらい動揺している。見た目にはピシリと固まっているだけだが。
(うわあ、うわぁああ〜、…これはどんな男でもオチルわぁ)
その様子に女王は心の中で嘆息ともとれる声を上げ、そろそろ止めないと男が可哀想だし、なにか大切なものを少女がなくしそうな予感がしたため腰を上げた。
だが、少しだけ女王は遅かった。
「こらこら、レイフォン。
僕のところにもおいでよ」
「へみゃ?しゃばいす さん?」
一文字しか名前があっていないが、名前を呼ばれた相手は甘ったるい笑みを浮かべ、少女を師から引き離し、自らの腕に閉じ込めた。
普段なら そんなことをしたら、少女の鉄拳が飛ぶが、子どもはへにゃへにゃぽわぽわした笑みを浮かべ、上目遣いにサヴァリスを見る。
これにはリンテンスには口出ししなかった女王や他の天剣ズも焦った。
ことレイフォンにおいて、誰よりも信用できないのがサヴァリスという男なのだ。
危ないこと山の如しなのだ。
「しゃばいすさん?
みなしゃん が、さっ きだって るんです けど」
「あぁ、気にしないでいいよ。
それよりも…」
呂律が回ってない様子も可愛いよ、などと囁きながら、サヴァリスが子どもを抱き締める。
だが、体と体が更に密着する前に、銀色の戦闘狂は倒れた。
「てめー、きたねー手でレイフォンに触るな!」
穢れるだろうが!と叫びながら、戦闘狂から子どもを救出したバーメリンはお絞りで子どもを拭く。
されるがままにぼんやりと姉貴分を見上げる子どもは相変わらず酔っているようで、倒れた戦闘狂と姉貴分の手にある復元された錬金鋼(これで殴ってサヴァリスを昏倒させた)を見、喧嘩はいけませんよー と変な忠告をする。
「た、痛いですよ、バーメリン。
いきなり何をするんですか」
「うっせー、お前、寝てろ、寧ろ永眠しろ。レイフォンに近付くな、変な目で見るな、触るな、視界に入るな」
「いいじゃないですか。
ほら、さっきはレイフォンも嫌がってなかったでしょう?」
「関係ねぇよ、んなもん」
奇跡の復活を果たしたサヴァリスとレイフォンを背に庇ったバーメリンが対峙する。
レイフォンはというと、瞳をトロンとさせて、眠る一歩手前である。
だが そんな子どもの様子など知らず、戦闘狂は錬金鋼を復元。
「どうやら、貴女とはここで決着をつけなければならないようですね」
「あぁー?調子こいてんじゃねぇぞ、クソヤロー」
「…では勝った方がレイフォンを貰うということで どうですか?」
「……いいだろう」
「いや、よくはないだろ」
リンテンスの冷静なツッコミは届かない。
ばかりか、他の天剣まで レイフォンを貰う の言葉に色めき立っていた。
「よーし!じゃぁ今日こそレイフォンを私達の養子にするわよ!行くわよ、リヴァース!」
「うーん…あれ、こないだは妹にするって言ってなかった?
あれ?ティア?」
「何を言うか!儂はレイフォンのお爺ちゃんになるぞ!じーじ って呼んでもらうんじゃ!」
「おいおい、止めてくれよ。嫁に貰ったときにんな家族がいたら気まずいだろうが」
「黙れ!遊び人!」
以下、略。
様々な罵詈雑言が飛び交い、攻撃が飛ぶ。
女王は粗方 片づいたら、最後に奪っちゃいましょうという、ある意味 堅実な作戦で ことの成り行きを見守っていたりする。
そんな中、渦中の子どもがふらりと立ち上がった。
眠たそうに、真っ赤に染まった頬に手で微風を送りながら、素知らぬ振りを決め込んでいた ある意味 一番 安全である人物の元の近くに座る。
「せんせ、まくら」
そして、そう言うがいなや、男の膝目掛けてバタンと少女が倒れこむ。
「…………おい」
男が思わず低い声で唸るが、逆に頬を擦り寄せられ、固まった。
高い体温が膝を伝う。
目の前では最早 日常と変わらぬ、阿呆全開な天剣ズ。
女王は 笑うばかりでなにもしない。
「うにゃ」
膝の上の弟子はというと、病人かと疑ってしまうほど紅に染まった頬に、汗ばんだ肌を晒し、寝苦しそうに呼吸している。
「…大丈夫か?」
「みーー…」
猫か、お前は。
薄い唇が中途半端に開く。
「…………うへへ」
子どもはゆるゆるな表情で、男はやはり困惑顔で、しかし汗の浮かぶ額にかかる前髪を優しい手つきではらってやっている。
最後にかっさらい作戦の女王は それを眺め、笑う。
「いーな、リン。懐かれてるー」
「好きで懐かれているわけじゃない」
ぼそりと男は言い、女王は生意気 言うなー と一度 男の後頭部を叩き、阿呆全開な天剣ズを指差した。
「あいつらなんて、好かれようと必死よ?」
「行き過ぎだがな」
最早 収拾のつかない事態になっている天剣ズの戦いを呆れ気味に眺める。
「……飲み会、止めた方がいいな」
「あー、やっぱ未成年に酒はダメよねぇ」
「………………」
絶賛 半壊中な飲み会場にて、重たい重たいため息と軽やかな笑い声、騒音の域に達している戦闘音、子どもの安らかとは言い難い寝息、それが耳の中で混ざり混ざった音を聞きながら、少女を見る。
「かーわいー」
「…………」
「酔うと面白いわねぇ、レイちゃん」
「…………」
「あ、男としてはたまらない?」
「……おい、まだガキだぞ」
「ふふふん、いやいや だってさぁ、せんせ の、ちょうだい? とか言われちゃって まぁ、羨ましいわねぇ も」
「……襲うなよ」
「リンもね」
「……余計なお世話だ」
結局は、いつも通り
日参している携帯サイト
ぽつり。
のゆく様からキリ番リクエストでいただいたレギオス小説!「天剣ズ+陛下で謎の宴会。未成年のレイフォンにお酒を飲ませて大変なことになっちゃうギャグ」です!ぐっじょぶですーvvリンテンスさんに無条件になつくレイフォンとか超かわいい・・・!!
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