Una festa di te

ジェッソとジッリョネロ、二つのファミリーの合併により誕生したばかりのミルフィオーレのツートップは、挨拶周りを兼ねた会談にここのところ忙しい。
 この日はジッリョネロと縁深い古豪にしてマフィア界のトップ・ボンゴレ十代目との対面とあって、流石の白蘭も緊張―――する様子は欠片も無かった。

 いつも通りのどこか胡散臭さを感じさせる笑みを端正な面に貼り付け、向う車のなかでもお気に入りのおやつ『マシマロ』ことマシュマロをぱくついている。
 彼の分まで気苦労を背負ったような入江の胃の方がしくしくと痛んだ。
「あれ、どうしたの正チャン?顔色悪いよ?」
 あーでも何時ものことか〜―――へらへら笑いながら言う青年を、青褪めた顔をしながら入江は睨んだ。
「白蘭さん、しゃんとしてください!スーツも着崩さない!!」
 言ってきゅっとネクタイを締め上げる。
「ちょ…正チャン、締め…締めすぎっ」
 ギブギブと、あんまり効いていないように言う男に腹が立って、入江は更にネクタイを引き絞った。




 普段着の上にホワイトスペルのジャケットを羽織っただけだとか、基本的に入江は何時も正式な制服を纏わないが、良く考えると正装も見たことが無かったのだとしみじみγは思った。
 見惚れていたのだと気付いたのは、澄んだ声でユニが着飾った姿の彼女を誉めるのを聞いての事。
「綺麗です、正子。何時もそうしていれば良いのに」
 小首を傾げながら愛らしい姫は素直に賞賛した。
 その言葉は正しく真実で、この日の入江 正子は美しかった。
 普段はクリップなどで適当にアップにしているジャッポネーゼにしては色素の薄い栗色の髪を、綺麗に整えて下ろしているだけでも印象は華やかで。
 痩せぎすの身体つきも、肌目の細かい肌も露わに細身の生きるデザインのワンピースドレスを纏えば、ジルフェの様にたおやかで可憐と形容されるものになる。
 ふわり羽織った見事なヴェネチアンレースのショールは漆黒。
 眼鏡も恰好にあわせてかアクセサリーめいて洒落たものになっている。
 薄化粧をされて顔色の良くなった細面が、少し戸惑うように笑う。
「ありがとうございます、ユニ様」
 お世辞でも嬉しいです―――と肩を竦めた入江においおいとγは思う。
 イタリアーナのガードの固さ故のものではなく、実際に入江が自分の姿を自覚していそうに無かったからだ。
「ホントそうだよねーユニチャン。正チャンたらこういう場合じゃなきゃ幾らドレスあげてもなかなか着てくれないしさァ」
 へらり笑って、白蘭は彼女の細い肩を抱き寄せる。
 γだけでなく、彼女に見惚れた男達全員に対する威嚇の眼差しで、紫の双眸が辺りを睥睨した。

「ようこそいらっしゃいました。どうぞお寛ぎになってゆかれてくださいませ」
 形式ばった会談後、再度案内されたサロン・ルーフガーデンに彼女は居た。
 柔らかな光りに照らされた温室の中央で彼らを出迎えた少女は、クラシカルなワンピースドレスを纏い、ふんわり春の陽だまりのような笑顔を浮かべる。

 若きボンゴレ十代目は確か先代たる九代目の一人息子だった筈―――γは考え巡らせた。
 まさか彼女がボンゴレ夫人なのだとは、ちょっと思えなかったのだ。
 まあそれも無理なからぬ事。実際彼女の姿形は夫人というより一昔前のお嬢さま風なのだから。
 日本人としても実年齢に加えて幼く見える容貌は、イタリアではより幼けなく見られる。
 小柄で華奢なせいもあって、精々がローティーンの始めぐらいにしか見られない。

 その彼女の折れそうに細い腰を抱き寄せたボンゴレ十代目ザンザスの言葉に、γは腰が抜けるかと思った。
「妻の都奈だ」
 その灼眼が浮かべる色が、不思議と柔らかい。

ある意味、前立って行われた会談以上に、豪華な顔ぶれだった。
 会談場からザンザスに付き従い来た数名も含めて、嵐の獄寺 隼人に晴れの守護者ルッスーリア、それに雨と霧が一対揃って居るのである。


 マナーとして二人のレディーのために椅子を引いたのにこやかな骸と山本だった。
 確かにルッスーリアを除けばこの面々の中で愛想がいいのはこの二人だ。

 毒など盛っていない事を示すにも有効に、全てホールの菓子は四種類。
 甘くないパイとサンドウィッチ、肉と魚二種類のテリーヌなど甘くない軽食もある。
 それが全て愛らしいまだ少女のボンゴレ夫人の手製なのだという事実も含め、食いしん坊の白蘭は手放しで絶賛した。
 たしかに本職の製菓職人や料理人が作ったもののような華やかさは無いが、どれも素朴で美味だった。

 色とりどりの果物がふんだんに盛られたタルトにチョコレートケーキとベイクドチーズケーキ。
 ほろ苦いカラメルがカスタードに良く合う焼きプリンは、コクのあるエスプレッソとの相性も良く、甘味をさほど好むわけではないγでも美味しく食べられた。
 ここの所、気が張り詰めている事もあってそう見せなかったほどの笑顔をユニも見せて。
 γの胸は安堵に包まれた。

「如何ですか、ユニちゃ…ユニさん」
 言い直した都奈に、ユニは少し悪戯っぽく微笑んだ。
「できればユニちゃんがいいです、都奈さん」
 にこっと笑った年少の少女に、都奈もほわんと微笑む。
「じゃあ、ユニちゃん、お菓子お口にあいましたか?」
 少々丁寧だが、親しい年少者に対する柔らかな言葉遣いになった都奈に、ユニはにこっと笑いかけた。
「どれもとっても美味しいです。お店で売っているのより優しい味がします」
 それは何よりの誉め言葉で、都奈の顔が更に綻んだ。
 愛らしい少女たちが微笑み合う、なんとも微笑ましい光景だった。




 賢く、年齢からすれば物分かり良すぎるユニにしては珍しく、帰りがけは名残惜し気に都奈の手を取って。
「また、会えますよね?」
 見上げてくる己より小柄な少女の青い瞳に、都奈の胸はキュンとなる。
 思わず彼女は夫を振り仰ぎ、おねだりモードの上目使い(性質の悪い事に無意識)で見上げた。
「…良いですよね?ザンザ……あなた…」
 潤む琥珀の瞳に、旦那様はそうそう逆らえず、まあ友好条約を結んだファミリーであるから良いかと、頷く。
 蕾が綻ぶ様に微笑みあい、手を取り合って少女達は再会の約束をした。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「どるちぇ(『雪月花』で連載中ザンツナ♀連載)設定でミルフィ組(特にユニ姫)との絡み」というリクエストでした。ツナとユニ姫が絡むと癒しだと思います・・・!

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