...

真っ青な秋空が冴え渡る今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか。
俺は早速泣きたくなりました。

「きーんこーんかーんこーん」

なんて気の抜けたチャイムだろう、と極力ぼんやりと他人事のフリをしようとした、のに、あろう事か気色の悪い微笑を浮かべたそいつはずかずかと教室に侵入してきた。うわあああくんなあああと全身が総毛立つも悲しきかな今は放課後で俺一人が教室で補習という散々なシチュエーションなのである。というよりこの学校のセキュリティーは見直すべきだと先生に進言しよう。どっかの南国パインに乗っ取られでもしたらどうするつもりなんですか、と。
そんな俺の嘆きを知ってか知らずか(100パー後者だ)侵入者──骸は後方にいつもの二人を従えたまま教室に入って来やがった。それから大声で、

「クハハハハハ！さあ、今日こそは契約して頂きますよ沢田綱吉！観念しなさい！」

ズバァーン。漫画ならものすごい集中線が引かれたであろう勢いだ。それは開けっ放しの窓から校内に響き渡り、グラウンドから山本の笑い声が、図書館の方向からは獄寺君が俺を呼ぶ声が聞こえた。それから、校内放送が入ったかと思えばたちまちぶつりと消える。雲雀さんだと思われる。
俺は最悪な結末を予想してしまった。小一時間格闘を続けたプリントが最早ゲシュタルト崩壊である。
こいつ馬鹿なんじゃないかなあ薄々気づいてたてか初っ端から気づいてたけどただの馬鹿なんじゃないかなああああ！
目を合わせまいと頑張っていた俺も思わずプリントを投げ出した。「今なら空も飛べるはず！」窓からの逃亡を考えるも枠下を見た時点で諦めた。

「……………………お前さあああ」

アイム、アングリー、アンド、アンハッピー、ナウ。ええいこの際合ってようとなかろうと知らない。解答欄にそれだけ書いてさっさと帰ろうとしたとき、控えていた千種さんが「これに調印しろ」と婚約届けを差し出して帰路を塞いだ。当然のように骸の名前が既に記名されているものである。うわあ。うわあなにこれ。これなんて拷問？

「ていうか俺でさえ知ってるんだけど日本じゃあ同性結婚はできないんだよ？」
「知っています。ですからこれからなんかその辺関係の上層部を乗っ取り法改正してくるんですよ」
「じわじわ接近してくんのやめない!!?」

もう限界である。リボーンの持たせてくれた死ぬ気弾が幸いベストのポケットに一つだけ入っていて、俺は最早それに賭けるしかなかった。貞操と学校を守る。それが俺の使命！

──その時である。
突如として空気が、ピイィン、と張り詰めたかと思えば、何かが爆発した。ごうごうと燃え盛るようなそれは、紫色の、

「雲雀さんの、ほのお──」

その正体を見極めようとした瞬間、千種と犬の呻く声が轟音に混じり耳に届いた。
瞬時に具現化した槍を、ガキィ、と鈍い金属音を立ててトンファーが襲う。

「建造物不法侵入及び窃盗未遂罪。問答無用でかみ殺す」

腕をぐいと引かれて、柔らかな衝撃に目を見張ればそれは見慣れた白のシャツだった。雲雀さん、雲雀さんだ。雲雀さんのシャツの匂いだ。

「建造物不法侵入は認めましょう。ですが窃盗未遂罪とは聞き捨てなりませんねえ……」
「なに？綱吉に触れなかったから情けをかけて未遂で済ませてあげようと思ったのに。あれみたいになりたい訳？」
「……！あなた、あの二人まで手に掛けたんですか」
「だって綱吉を"俺の嫁"って呼びながら走ってきたんだ。そりゃあ沈めるよだって綱吉は僕の妻だから！」
「ひっ、雲雀さん…………っ！」
「この状況のどこにときめきメモリアール!!?」

千種さんと犬が横たわってるからきっとあの二人ってこの二人のことなんだろうな。
俺の嫁なんて言われてないけど今はいいや！雲雀さんが助けに来てくれたんだから！

「綱吉。南国パインを生ゴミ処理機にかけたら、騒ぎの責任として応接室で仕事手伝ってもらうからね」
「はっ、はいぃ！」

言葉は厳しいけどその口調は柔らかくて優しくて。さらさらとした黒髪が靡く様を見てすっかり骨抜きになってしまった俺は、補習をさぼる口実を必死に考えているにも関わらず頬の熱を抑えることができないでいた。まあいいか。風紀委員のお手伝いです、って言えば。

はっ。
気づいた時にはそこに骸の姿はなかった。カーテンのはためく窓を見つめる雲雀さんは勝ち誇ったように微笑していて、ああ、骸逃げたんだな、と理解力のない俺でもすぐにわかった。

「……さて、行こうか」
「はいっ！」

雲雀さんは笑う。笑うのだ。他には見せない柔らかな目をして。
この人が好きだなあ、と、改めて実感させられた日でした。

次の日獄寺君と山本は何故か欠席だった。
雲雀さんを誘ってお見舞いに行こうと思う。

犯罪者を駆逐せよ！

(あの子どこの子僕の妻！)