X.(あと、……?)





「か、」


「か?」



「かっわいーーーー!!!!」


都市の最高権力者の叫びに、当事者らはぽかんと口を開けて、目を点にしたのだった。









とあるゾンビ少女の災難
 X(あと、……?)








思っていたよりも、簡単に天剣を取り戻せた。
妨害はあまりなく、守衛を1人2人、気絶させて、天剣を納めるべき場所に向かったのだ。

おそらく、天剣の設定はレイフォンのものであった時から変化はないはずで、ならば新たな天剣授受者に与えられる前に安置し、技師による再設定を行わなければならないはず…そう言ったのはリーリンで、レイフォンはそれは成る程 一理ある、と王族以外は知る由もない天剣を納めるべき場に義姉の導きにより到達したのだ。
そして予想された抵抗もなく、天剣は主のもとに戻った。


で、さて それではどうしよう。


それがレイフォンとリーリンの現状だった。



「取り戻せたし、もっかい奪われない限り、…一応 大丈夫だとは思うんだけど………うーん、これから どうしよっか、リーリン」


とりあえずの目的は達成し、封印の間に戻ってきてみたが、達成後の計画などなかったレイフォンは途方に暮れた。
このまま自主的な眠りにつくにしても、再び天剣を盗られたら意味がないし、最悪の場合、天剣を盗る前に、レイフォンを再起不能にされるかもしれない。
レイフォンは汚染獣の手足で、リーリンは頭。
レイフォンが動けなければ、リーリンはなにもできない。

自分だけの問題ではないからこそ、レイフォンは使わないおつむを活用しようと頑張るが、それほど優秀なものではないのでパンク寸前だ。


「そうね……天剣や女王様が私たちをほっといてくれるわけないし」

「だよねぇ」

一応 天剣は世界の命運とやらの鍵でもあるわけで、重要性を理解はしているリーリンは渋顔だ。
果たして人間は話して理解してくれるか?
汚染獣と一体化した自分たちを、傷付けないか?
否、義妹を傷付けないか、だろう。
最早 癖のようなもので、レイフォンはリーリンを徹底的に護る。盲目的ともいえるほどだ。

だから、リーリンの身体が傷付くことはない。

だが、自分の変わりに大切な者が傷付くのは耐え難い。



「…………本当に…逃げちゃいたいわ」

数時間前と同じことを呟いてみるが、それではなんの解決にもならない。第一、天剣を持って逃亡などしたら、追われるに決まっている。


「んー……んー…」


2人揃って、難しい顔で唸ってみせる。
が、やがてレイフォンがついと視線を上げた。
途端に険しい顔になり、リーリンを見つめる。

「見つかった…みたい」

眉を寄せて、リーリンにどうする?と視線で訴える。
闘う?逃げる?話し合う?
どちらにせよ、リーリンを庇うつもりなのだろうレイフォンが一歩 前に出る。


そして


「犯人は犯行現場に戻ってくるっていうけど…ビンゴね!」


女性の声に、空気が……変わった。



***



女王は愉しげに声を上げ、しかしそれに反し、油断だけはせずにゆっくりと扉を開けた。

そして、薄暗い室内に2つの人影に目を凝らす。
段々と瞳が暗順応して、2人の姿をはっきりと見えた。

…見て、はて?と首を傾げ、後ろに控える天剣たちにチラリと視線を投げた。
視線が語るのは、化け物はどこにいるの?だ。
それに天剣は ため息。
ティグリスはそんな女王の横に進み、封の陣の向こう側にいる少女らに一礼した。


「お久しぶりです。リーリン様、レイフォン様」

「…………ティグリスさん」


スカート姿の少女を庇うように、背に隠した藍色の瞳の少女が、ゆっくりと反応した。
感情のない、がらんどうな藍色に若干の険しさが宿る。


「僕にとっては、この間、もう起こさないで と頼んだと思っていたんですけどね。
随分と、老けましたね」

「あれから50年、ですから。
…この度は、本当に申し訳ないことをした。
…破損されたお身体の方は…」

「残念ながら、僕は元気です。身体を新調しましたから、調子はいいですよ」


そう言って、少女がくるりと基礎状態の天剣をまわした。

レストレーション、と桃色の唇が呟いて、長身の刀を小さな手で握る。


「僕が、なにをされたら怒るのか、わかっていますよね?
……リーリン、どうする?」


いつでも闘えることを現して、背に庇った少女に問う。
リーリン、と呼ばれた少女。
女王の直系ではないが、先祖にあたる少女がふと瞳を歪めた。



「…落ち着いてくだされ。…陛下、どうするのだ?」


祖父が目を細めた。
女王に問う。……が、反応がない。

周りの天剣も陛下?とやや呆れ気味に声をかける。

が、女王は敵と考えていた少女らに釘付けになっていた。

「か、」

「か?」

「かっわいーーーー!!!!」

女王が、叫んだ。
叫ばれた少女らは肩をびくりと震わせて、ぽかんとし、天剣らはある意味 やはり…と頭を抱えた。



「へ、あ、わっ!」

「ちょ、なにこれ、なんでこんなに可愛いの?!
ご先祖サマ、グッジョブじゃない!」


いつの間にか、間合いを詰められ、ぎゅっと手を握られたレイフォンが反応できなかった!とショックを受けて、立ち竦む。
抵抗がないことをいいことに、女王はしげしげと元天剣の少女を眺め、生きているとしか思えない少女の頬に触れる。

しかし指先は温度を伝えてはこず、なる程、そっかそっかと1人納得し、ぽかんとしている少女の肩やら腹やらに指を這わすが、その手は後ろから伸びた少女の手に阻まれた。


「……レイフォンに、いかがわしいことしないでくれます?」

品の良い顔に浮かぶのは怒りだ。
ふわふわした容貌に似合わぬ怒気を含んだ言葉に、元天剣の少女が我に返った。
アルシェイラの手を払いのけ、数歩 後退する。

「り、リーリン?」


恐々と元天剣が問うが、運命の子は据わった目で女王を見ていた。


「あ、この子もかわいい!」
それに胸が好み!

と、女王が変態発言を繰り出すが、運命の子はそれを華麗にスルーした。


「……その顔、に、女とみれば すぐ手を出そうとする姿勢……尚且つ、中でもレイフォンに対するセクハラ……あの男の家系の者ですね」


あの男、と言われても、女王にはわからないが、少女にとっては確定事項らしく、睨む目に凄みが増した。


「レイフォンを嫁にするんだ、とか子づくりしようぜだとか、散々 吐いてたダリウス・アルモニスの家系でしょう!」

「わ〜、リーリン 記憶力いいね。
でもあれはダリウス様の冗談だってー」

「わかってないレイフォンは黙ってて」


あはは、と懐かしそうに微笑した元天剣に運命の子はズバッと言った。
そして、とりあえずその名の先祖がいたことは確かな女王に向き直った。


「確かにあの人にはお世話になったけど、レイフォンは本当に本格的に狙われてたんだから…あぁ も、思い出していらいらしてきた」

「リーリン…?
なんかよくわからないけど、今 それどころじゃないんじゃ…」

黙ってて と言われたが、この状況で口を挟まないわけにもいかないのだろう。
元天剣が困った顔で進言し、女王はぱ!と目を輝かせた。


「そうよね!それどころじゃないわよね!」

「「貴女のせいですけど」」


声を合わせた2人に、その通りだろと頷く天剣に挟まれ、女王は愛想笑いを浮かべた。


「ね、なら、私に貴女たちを預けてくれない?」


「……は?」


如何にも名案!と手を叩いた女王に元天剣が小さく声を出した。
運命の子はますます表情を険しくさせて、彼女を庇う元天剣の手をひいて、そばに寄らせる。


「それって、どういう意味ですか?」

警戒心の強い、トゲトゲした声。
それに女王はなにかよくない思い出でもあるのだろうな、と苦笑した。


「だから、貴女たちは来るべき地獄のために私のそばにいてほしい ってことよ」

「………………」

「……どういう…」


怖い顔で沈黙する運命の子に、おそらくは“彼女の天剣”だった少女は困惑気味に眉を寄せた。


「…ま、私が貴女たちを殺す気もなくなっちゃったってこと。
天剣や、運命の子なんてね、伝承が真実であったとしても、私が知らない子に任せるなんて嫌だったのよ」

「………………」


「でも、それなら私が貴女たちを知ればいいってことじゃない?」

「…一理ありますね」

固い声で応じる運命の子を元天剣は心配そうに眺める。

どうやら敵意が失せたことは理解してくれたようだが、決定権は運命の子にあるらしい。



少女らは手を繋ぎあって、瞑目。


ゆっくりと瞼を上げた。


「少し…時間を頂けますか?」


そう頼んだ少女らに女王はくしゃりくしゃりと彼女らの頭を撫でて、頷いた。



***



「………………」


言葉は、なかった。

これからへの期待も、ない。


なにを選択してもよい、という言葉を残して、女王は扉の向こうに消えた。



封の陣の中心で、驚くほど静かな、揺れることのない瞳と瞳が交わる。



「……本当に、…レイフォンは、それでいいのよね?」

ぽつり、とリーリンが問う。
迷いよりは確認のための問いだ。
レイフォンはそれに微笑んだ。

「うん。リーリンが一緒だし、僕は平気。…リーリンは?」


「私も。……」


ぎゅっと、昔のように、まだリーリンが孤児院にいた時、弟妹たちが引き取られて 自分たちが取り残されたように感じた あの時のように、お互いの手を握りしめる。


幼い頃から、ずっと変わらない。

それにお互い安心して、2人はゆるゆると瞳を閉ざした。










ーーーー……それで、終幕。







日参している携帯サイトぽつり。のゆく様のハロウィンフリーでした!レイちゃん可愛い!リーちゃんかっこいい!(え)。こーいうのも悪くないですー・・・。

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