こいこふ
「アルコバレーノはずるいです…!」
むぅぅぅっと愛らしい美貌を顰めて、骸は黒髪黒瞳黒衣の赤ん坊の姿をした最強のヒットマンを睨んだ。
「どーした、骸」
マフィアは女に優しいもんだ―――とのお言葉通り、基本的にリボーン先生は骸に優しい。
十代目ドン・ボンゴレ最有力候補である綱吉の命を狙ったとして拘束されたものの、その幼さと情状酌量の余地が多大にあるとして綱吉の意向が通って、目下彼の元で保護観察中である美少女は、その最強な家庭教師様に向って頬を膨らませて見せた。
栄養不良で折れそうに華奢な少女だが、年齢もあって頬は優しい丸みを帯びた線をしている。
その白い柔らかな頬をぷっくりと膨らませると、生来の端正すぎる程の造型は崩れたが、代りに年齢相応の愛らしさを帯びる。
「いつもいつもいっつもお勉強だの修行だの訓練だのって、綱吉君を独り占めしてますっ。僕もたまには綱吉君と遊びたいです!」
違色の双眸をうりゅっと涙ぐませて、骸は訴えた。
「ふむ」
と家庭教師様は紅葉の手で小さな顎に触れて考える素振りを見せて。
「よし、良いだろう。骸、ツナとデート行って来い」
きらーんと円らな黒瞳を煌かせていった小さな彼に、きょとんと瞠られた骸の瞳も、じきにキラキラ輝いた。
「ちょっと待て!オレの人権何処いったーーー!!!」
綱吉の素朴な疑問突っ込みは、いつも通り見事にスルーされた。
デートならば、待ち合わせからなんですよね!!―――頭でっかちなせいか妙な拘りを見せた骸は、並盛駅前をその場所に指定してきた。
別に同じ家に住んでいるんだし、適当に準備が出来たら一緒に出かけるんでいいんじゃないかと、情緒のないことを綱吉は思って、リボーンにぎゅむっと足の小指を踏まれた。地味に痛かった。
「デートなんだから」
言う妙に張り切ったビアンキがごそごそクロゼットを漁ってコーディネートした服を着せられ、
「デートなんだから!」
と妙にウキウキした母に臨時小遣いを貰ってとぼとぼと綱吉は出かける。
駅前で待っていた、花柄のキャミソールワンピースにボレロを重ねた骸が自分を見て微笑む様に、まあそれもいいかと思いはしたが。
「ママンがオレンジカードというのをくれました。なので、三駅向こうの水族館に行きましょう!」
にこにこ微笑み云う骸に、否やはない。
いつも強気な様でいて、小さな手でおずおず触れてくる彼女に、きゅっと胸は痛む。
ランボの様に当たり前の様にその手が握りかえされる自信があるでもない心を、超直感だけでなく、フゥ太や少し戸惑うイーピンゆえに綱吉は察していた。
手が小さいだけでなく、指もか細い。
骨や筋の感触のする手は、只小さなだけではない。
彼女の痩せっぽちさをより感じさせる小さく壊れ物めいた手に、綱吉はいつも切なくなる。
強く握るのは躊躇われた。
でも、せめて温めたくて、絡めてくる指を解いて―――泣きそうな顔をする彼女の手を、包み込むように握った。
海豚にペンギンに、骸は年相応と言えばそうであろう無邪気な嬌声を上げた。鰯や鯵や鮪や鰹や烏賊と蛸にはには「くふふ、美味しそうです」と微妙なコメントがあったが。
海豚のショーまで少し時間が余るからと、土産物屋で縫い包みをもふもふする骸は無邪気だ。
それは幸せそうに、手触り良さそうな中くらいサイズの海豚の縫い包みを抱きしめる彼女に、思わずと綱吉は言っていた。
「……骸、それ、連れて帰ろっか」
綱吉の言葉に、ブンブンと骸は首を振る。
「綱吉君家にいっぱい居ますから!」
それにこの子達って、意外といいお値段するし―――と思って、骸は言った、が。
むぅっと優しい眉を顰めた綱吉は、骸からパステルブルーとベージュホワイトの海豚を取り上げ、レジへと向う。
縫い包みがそれなりにいい値段することは承知の上。それでも骸を喜ばせたいと思ったのだ。
勿論、財布の中身と相談はしたが。
母さん、万札様くれてありがとう―――海豚のショーを見ながら、綱吉はしみじみと思った。
お陰で、水族館の入館料やイイお値段のする縫い包み様他、持って帰らなきゃ殺されそうなささやかなお土産は買えたし、昼飯代も大喰らいの自分が居るのにちょっと足が出る位で済みそうだ。
ショーと、更にぼちぼち館内を眺めて。
ちょっと遅い昼飯を取るに当って綱吉がセレクトしたのは、ファミレスはファミレスでも和食を中心としたチェーンだった。
水族館からたどり着くまでファーストフードと洋食系のファミレスだけでなくラーメン屋もあったから、綱吉が自分の事を配慮してくれたのだとわかって骸は嬉しくなる。
自分には本日のランチと単品メニューのカツ丼を頼むと。
「食べれる分食べれば良いし」
言って、綱吉は品目の多い御前を骸に選ぶ。
自分で選ばせると、骸が甘い物か食べきれそうなサイドメニューの類いを頼むと、その目が追うページで察したので。
「綱吉君、いつも以上に優しいです。」
くふふとそれは嬉しそうに笑う骸に、そうか?と首を捻りながら綱吉は酌んで来たドリンクバーの葡萄ジュースを骸に渡して、自分はコーラをごくり飲む。
はいと頷きながら、骸は甘酸っぱいジュースを吸う。
にこにこいつも以上に嬉しそうな顔をする彼女に、そうなのか?と100%無意識でどれもこれもやっている、何気に無自覚なフェミニストの綱吉は頭を捻った。
「綱吉君、綱吉君。」
きゅっと繋いだ手を少し強く握った骸に呼ばれ、どーしたと綱吉は軽く返す。
帰り道はすっかり夕映えで、西日に落ちる影は長くなっている。
「綱吉君、大好きです」
くふくふ笑いながら、骸は幸せそうに言う。
言うだけで満足なのだと、妙に自己完結してしまう骸に、綱吉はいつも少し苛立つ。
骸は賢いが幼い。
特に情緒面は妙に大人びてしまった部分と幼すぎる部分が渾然としていて、バランスが悪すぎるとリボーンをして溜息がてら零したものだ。
感情面でもムラが大きく、突然泣き出したり、塞いでそれに引き摺られる形で寝込んだりもする。
トラウマというのかPTSDというのか綱吉には良く解らないが、それだけ恐い思いを小さな少女がしてきたのだと知らされ、綱吉はやり場の無い怒りに時々駆られる。身体だけでなく、心もボロボロなのだ。こんなに小さいのに。
それなのに、少しの好きをくれれば良いと、大好きと繰り返す少女は言う。
大好きと言える相手を見つけて、今幼い少女は満足なのだ。
幼子が父に母に大好きと告げるように、骸は綱吉に大好きと繰り返す。
いっそ幸せになりたいと、大好きになってと訴えてくればいいのに。
恋ではない気がする。
京子ちゃんへの想いの様に、ふわふわ甘いものではない。
骸を想うと苦しくなる。
泣きたくなる。
でも可愛い。
腕の中に囲い込んで、もう二度と恐い思いをさせないようにしたい。
それだけの力が欲しいと、綱吉は思う様になった。
強くなりたい、この小さな身体を包み込めるぐらい大きくなりたいと。
それもまた恋なのだとは、自身も幼い少年は、まだ知らないのである。
絶賛日参中な携帯サイト
雪月花
の雨里様からキリリクでいただきました。「アイレン(『雪月花』で連載中ツナムク♀連載)でツナと骸子(強制)デート」(リクのときはもうちょっとシチュエーション設定をさせていただきました)というリクエストでした。かーわいーなー畜生!(笑)。
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